なぜ男は巨乳が好きなのか? 「おっぱい」をマジメに科学した本

健康・美容

更新日:2017/12/31

 日本人で乳がんと診断される女性は、1年間に4万人にものぼり、女性のがんで最も多い。女性が一生の間に乳がんになる確率は14人に1人。アメリカでは8人に1人ともいわれている。「ピンクリボン運動」も年を増すごとに拡大。2013年5月にアンジェリーナ・ジョリーが予防的な乳腺切除を行ったと公表し大きく報じられたこともより人々の関心を高めている。

そんな「胸」いや、男性からは絶大な人気で崇拝される「おっぱい」を科学的に検証した“まじめな本”が『おっぱいの科学』(フローレンス ウィリアムズ:著、梶山あゆみ:訳/東洋書林)だ。大きなテーマは「乳がん」だが、なぜヒトの女性が後に丸く柔らかいふくらみ「おっぱい」を持つようになったのかという話題から始まり、哺乳の進化、乳房の構造と働き、豊胸手術、少女の思春期の双発化、母乳vs.粉ミルク、母乳の汚染、避妊薬やホルモン剤の影響など多岐にわたり語られている。一読してみると「器官としての乳房の基本的な仕組み」を私たちはほとんど知らないことに気づく。ともあれ、まずは胸に関する歴史をみていこう。

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●男性はなぜ大きな胸が好きなのか
 「大きい乳房のほうが小さい乳房よりたるみやすいので、年齢をより明確に“教えて”くれるから男性は大きい胸が好き」なのだそうだが、その説を裏づける実験がフランスはブルターニュ地方で行われた。結果はこちら。

 場所は、夜のバー。十人並みの容姿をもつ20歳の女優がブラジャーにパットをつめていき、サイズごとに声をかけられた人数を計測。
 Aカップ…13回、Bカップ…19回、Cカップ…44回。

 次に、若い女性が道端でヒッチハイクをする設定で実験。
 Aカップ…15回、Bカップ…20回、Cカップ…24回。

 アホくさい実験かもしれないが、「男性は乳房のせいで注意が散漫になる」という科学的検証結果がでているほど、私たちの文化では胸の大きい女性の方が注目されるといえる。それゆえ、女性はいろんな努力をする。クリーム、錠剤、バスト吸引カップ、胸のエクササイズ…。かつてのセックスシンボル、ハリウッド女優のジェーン・マンスフィールドは乳房にカカオバターを塗りこみ冷水をかけて引き締めることに励んだという。そして、You Tubeでは、画像編集ソフト「フォトショップ」の「ゆがみフィルター」を使ったおっぱい拡大法を解説した動画が見られるほど。

●豊胸手術の歴史
 手術によって胸を大きくしようとする女性が現れるのも当然のこと。史上初の豊胸手術が行われたのは1895年のことだった。
 だが当時の豊胸技術はつたないもので、手術は失敗に終わる。41歳の女性歌手が臀部にできた良性の脂肪腫を摘出して移植したが、移植された乳房は見た目が悪く、脂肪が溶けてしまい効果はイマイチだったという。
 以降、ガラス玉、木くず、ピーナッツオイル、雄牛の軟骨、パラフィンと思いつくままの豊胸材が使用され、感染症などで乳房を両方とも切除せざるを得ない事態を招くことも。その後、「プラスチック革命」がおき、テフロン、ナイロン、樹脂製のガラスが詰め物候補に加わり、紆余曲折を経て「シリコン」が登場。全世界で年間8億ドルを超える市場規模となり、500~1000万人もの女性の胸にシリコンバッグが入っていたと話もある。

●母乳vs.粉ミルク論争
 そんな「おっぱい」は、「人間の赤ちゃんに100%適している自然がくれた完全食」という。何100種類もの物質が含まれ、中にはバイ菌と闘ってくれるものもある。適温、味も良い。母乳の原材料表示ラベルがあればこうだ。「脂肪分4%、ビタミンA・C・E・K、糖類、必須ミネラル類、たんぱく質、酵素、抗体」。
「母乳vs.粉ミルク 正しいのはどっち?」の章では、著者の過酷な授乳経験のエピソードにも触れ、論争が繰り広げられていて大変興味深い。

●乳がんリスクと思春期の関係
 話は戻るが、本書の最大のテーマは「乳がん」。

 アメリカ国立環境衛生学研究所は「乳がんリスクを高める最も重要な要因は思春期」と指摘する。
 同研究所の研究によると「12歳より前に生理がくると、16歳までに来る場合より乳がんにかかるリスクが50%高くなる」のだとか。思春期が早く来れば乳房が女性ホルモンの一種・エストロゲンとプロゲステロンを浴びて細胞に変化が生じる期間が数年長くなる、あるいはエストロゲンが体内で代謝されて有害な物質がつくられ、活性酸素が発生DNAを傷つけるかもしれないと。
 もうひとつは、「発がん性物質の影響」を非常に受けやすい思春期が早くなればその期間が長くなる。その要因となるのが恐ろしいことに、カフェラテのプラスチック容器、ゴキブリ退治でつかったスプレーの霧、鮨の魚の水銀、レシート、着色料、防腐剤、シャンプー…と私達が普段よく目にしている物質なのだ。

 また、食物繊維や野菜を多く食べる=思春期に入る時期が遅い、多量の肉を食べる=性的成熟が早い(乳がん環境センター<BCERC>)という説も紹介されている。他にも幼児期に太っていた女性は幼児期にやせていた女性より乳がんを発症する確率が27%低い(スウェーデンの研究)という説など、乳がんの原因究明についての研究は盛んに行われ、さまざまな仮説が展開されている。

 「乳がん」は遺伝性だと思われがちだが、それは1割ときわめて低い。高額な遺伝子検査を受けて「陰性」の結果が出ても今のところは少しも安心できない。男性だって乳がんになるし、身近にいる大事な女性の「おっぱい」について理解を深めてほしいと最後に著者はいう。女性へは「汝の乳房を知れ」とのメッセージが。

 「おっぱい」は、単なる性的シンボルではなく「健康を映しだす鏡」。自分の「おっぱい」と真面目に向き合ってみる必要がある。

文=中川寛子