羊が思わず1日100回も交尾してしまう媚薬? 世界中のヘンな植物たち

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 海を渡り、世界中から希少な花や有用な植物を集める「プラントハンター」。有名なのは、19世紀に中国の秘伝であった「チャノキ」とその製法を持ち出し、当時イギリス領であったインドのダージリン地方に植え、茶の中国独占を打破したロバート・フォーチュンだろう。実はこのフォーチュン、江戸末期の日本に2度も来日し、植物の調査を敢行(文化や風俗なども併せて調査をしている)、豊かな自然と当時の日本の園芸技術の高さに非常に驚いたことなどを『幕末日本探訪記』(ロバート・フォーチュン:著、三宅馨:訳/講談社)に記している。

 しかしまだまだこの世界には、多くの人に知られていないすごい植物やヘンな生態を持つものがたくさんある。それを紹介しているのが『そらみみ植物園』(西畠清順:著、そらみみ工房:イラスト/東京書籍)だ。著者の西畠清順氏は、フォーチュンが来日した数年後である明治元年に創業した花と植木の卸問屋「花宇」の5代目であり、自身もプラントハンターとして世界中を旅している。またMr.Childrenなどのプロデューサーとして知られる小林武史氏がプロデュースした商業施設「代々木VILLAGE by kurkku」の庭を手がけ、2012年からは人の心に植物を植える活動「そら植物園」をスタート、テレビ番組『情熱大陸』でも紹介されるなど話題の人物だ。

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 本書は西畠氏が出会った、世界中の妙な形や生態を持つ植物を、図鑑のような四角四面ではない、植物への熱い思いに溢れたひと癖ある説明と、独特のタッチと雰囲気を持つイラスト(武蔵野美術大学の学生によるもの)で紹介している。そして植物の分類も「おそるべき才能をもった植物」「イラっとする植物」「記録よりも記憶に残る植物」「秘境・ソコトラ島の植物」「マジで!? な植物」「残念な植物」「ムラムラくる植物」「愛を語る植物」「世界を変えた植物」といった独自の見出しになっており、普通の図鑑とはまったく違う植物を愛するがゆえの逸脱っぷりと、ヘンな植物が目白押しなのだ。

 「ムラムラくる植物」に分類されている、中国に分布するという「ホザキイカリソウ」は、それを食べた羊がアホみたいに絶倫となり、1日に100回も交尾したという逸話がある植物だそうだ。日本に古くからある「錨」に似た花の形から「イカリソウ」と呼ばれているそうだが、そんな図鑑のような「文化的小ネタ」はどうでもよく、「イカリソウが媚薬になるという事実そのものが興奮材料」だと西畠氏はいう。また「愛を語る植物」には、2008年にマダガスカルで偶然発見された「自殺するヤシ」というものがあり、自殺すると決めると全身全霊で花を咲かせて種をつけ、死んでいくのだという。しかし野生の自殺ヤシは30本ほどしかないため、種の保存に尽力し、次世代へつながなくてはいけないと力説している。

 そんな西畠氏だが、花と植木の卸問屋の5代目として生まれながら、大人になるまでまったく植物に興味がなかったという。しかし世界を放浪していた21歳のとき、ボルネオのキナバル山で出会った「ネペンテスラジャ」という世界最大の食虫植物を「マジすげえ!」と歯が抜けるほどの衝撃を受け、家業を継いだという。もちろんそのネペンテスラジャは本書でも紹介されているので、どんなものか確かめて欲しい。

 ちなみに“そらみみ”とは「植物の話が、そらみみのように聞こえ、ふと気づくとあなたの心のなかにも植物園ができるような……そんなイメージの植物エッセイ」ということから名付けられたそうだ。縦横が約15センチという小さなこの本には、植物への熱い思いと、植物への愛が溢れている。

文=成田全(ナリタタモツ)