若者の過半数が「社蓄を希望している」って、本当?

社会

公開日:2013/11/29

 「希望は、社畜」。このような刺激的なコピーが書かれた帯に包まれているのは、常見陽平著『「就社志向」の研究 なぜ若者は会社にしがみつくのか』(角川書店)だ。

 今、若者たちの間で、ノマドや起業といった働き方に注目が集まっているが、「企業で働きたいと思っている若者、しかも同じ企業で継続して働きたいと思っている若者が増加している」と著者は主張する。メディアで見られる“若者は自由に働きたがっている”という報じられ方は、事実とは異なるのだそうだ。では、本当に若者は社畜になりたがっているのかどうか、本書で紐解いてみよう。

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・今の会社に一生勤めたい 55.5%(2013年)

 上記のアンケート結果は、日本生産性本部が毎年、新入社員に実施している調査によるもの。二者択一の設問で「今の会社に一生勤めたい」もしくは「チャンスがあれば転職してもよい」のどちらかを選択できる。1997年から2004年までは“転職志向”が“終身雇用志向”を15%近く引き離していたが、2005年に並ぶと、その後は逆転して“終身雇用志向”が上回っているのだ。

 また、就社を希望する若者の増加を裏付けるものとして、大卒で企業に就職する率が高いことを挙げている。「毎年、1学年約60万人弱の大学生がいる中、毎年約40万人強の大学生が民間企業への就職を希望し、30万人強が正社員で就職が決定しているのもまた事実である」。

 確かに、数字だけを見ると就社志向は根強く支持されているようだ。ここで考えたいのは、はたして本当に企業へ就職することを自分の意志で選んでいるのかということ。大学4年生にもなれば、周囲の雰囲気が就活へ向けて高まり、友人たちもスーツを着始めて、親からも応援されるだろう。そうした勢いに押されて、企業で働くことが当たり前だとする慣習に従い、就活を仕方なく始める者も多いのではないだろうか。そうした中で自分自身を見つめ、やりたいことが見つかり、夢を実現できそうな企業を探すきっかけになる者もいるだろう。でも、やりたいことが見つからず、自分自身も何ができるのか不安なまま、とりあえず就活をして企業に就職する者もいるはず。数字だけでなく、そうした内面を見つめることで、若者たちの就社志向の実態や、働き方の考察が、より鮮明になるのではないか。

 本書はタイトルにある「なぜ若者は会社にしがみつくのか」に関する考察からはじまり、“学生たちの就活の実態や問題点”が深く掘り下げられている。なので、就社志向を否定するものではなく、巻末には企業で働くことついて「それでも会社は、かけがえのない場所となりえるのだから」と、希望的な言葉で締めている。企業が自分に合っているかどうかなんてわからないし、合ってなくても実力を発揮できる場所になる可能性もある。また、ノマドで活動することに適する者もいるだろう。結局のところ、すべては貴重な経験でありその人次第。それが、働くことの真実だといえよう。

 その他、本書で語られている就活に関する実態には、興味深いものがあった。“Webによる応募者増大による弊害”、“企業の人事担当者の思惑”、“楽しい就活イベントの裏の目的”、“クソゲーと化す就活の側面”など、著者がこれまで就職サービス会社や企業の人事担当、人材コンサルタントなどを務めてきたからこそ知り得る裏側が書かれている。

 “働き方”というテーマは学生に限らず、社会人なら毎日自問自答してもよいくらい難しい問題だ。最新の就活事情や学生の動向などを知ることで、自分が“社蓄化”してないかチェックしてみるのもよいかもしれない。

文=八幡啓司