アニソン、ボカロ、ゲーム…、いま秋葉系DJがアツい理由

マンガ

更新日:2014/6/13

 DJ、クラブと言うとどういった音楽ジャンルが思い浮かぶでしょうか? テクノ? ヒップホップ? ほかにも色々な音楽ジャンルをイメージをされる方が多いかもしれません。

 現在、そういった音楽ジャンルの枠を軽々と飛び越え、しかしひとつのカテゴリとしてクラブシーンで注目を集めているのがアニソンやアイドル、ボカロ(VOCALOID)、ゲームミュージックといった“オタク寄り”な楽曲です。その勢いはとどまることを知らず、数千人を動員するイベントも珍しくありません。

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 そうした盛り上がりの象徴とも言える1冊が、先述したカテゴリの楽曲を“秋葉系”と定め、これらを中心にプレイするDJ50人を紹介した『秋葉系DJガイド』(GROOVE編集部/リットー・ミュージック社)です。

 現在の“秋葉系”シーンはどうして生まれたのか、そしてその魅力は――DJ、クラブカルチャー専門誌『GROOVE』編集長であり、同ムックの編集者でもある細川克明氏に伺ってみました。

 

●盛り上がり続ける秋葉系DJシーン

――まず、この本を作ることになったきっかけは?

細川:数年前からアニソンやアイドル、ボカロ、ゲームミュージック……この本で“秋葉系”と括っている音楽を流すDJやイベントが増えているという実感はありました。でも『GROOVE』本誌だとなかなか上手く魅力を伝えられない、共生できないというジレンマがあって。「だったら1冊まとめれば、お互いに居心地がいいのでは」と思ってスタートしたのが今年の春くらいです。

――そうした秋葉系DJやイベントが盛り上がるようになった理由は?

細川:DJ機材が多様化し、しかも機材の値段が下がったおかげでDJを始めるハードルが下がり、「自分達でイベントやればいいじゃん」と気付いた人がポツポツ出てきました。そうした流れと、ディスコカルチャーから生まれ、コミケに付随するコスプレダンパ(1990年代以前から行われていたコスプレをして踊るイベント)の流れのすみ分けができてきたのが7、8年くらい前で、それからこのシーンがブレイクしてきました。

――ほかのジャンルに比べて、秋葉系イベントの特徴は?

細川:イベントに顔を出して印象に残ったのは、観客のみなさんもよく楽曲を知っていることですね。たとえばテクノ系だと、全曲知っているなんてよほどのマニアだけですよ。個人的には1990年代から2000年代前半のヒップホップシーンと近い印象を受けます。「音楽はヒップホップしか聴かない」みたいな人が集まって、サビの部分でみんなで大合唱して、とか。とにかく楽曲愛や、そのシーンに対する愛が尋常じゃないですね。すごい温度感です。

――秋葉系DJのスタイル的な特徴は?

細川:まず、ショートミックス(素早く次の曲につなげるスタイル)な点ですね。基本的にアニメのオープニングやエンディングと同じ90秒くらいで、次の曲につないでいます。あと普通のDJは曲調でつなぐのに、たとえばアニソンの場合、曲調だけでなく作品の背景でつなぐというのも面白いですね。アニメの制作会社つながりとか、アニメのタイトルでつないだりとか。『となりのトトロ』→『怪物くん』→『となりの怪物くん』とか。ほかのジャンルではあり得ない(笑)

――現在の秋葉系イベントのシーンをどう見ますか?

細川:先日行なわれた「Re:animation」(2011年から新宿や中野で行なわれている野外DJイベント)など大規模なイベントもありつつ、集客100~200人くらいの小ぶりなイベントも数多くあって。そうした密室感のあるイベントが、都内だけでなく日本全国で同時多発的に起こっていて、すごく健全な状況に見えます。

――印象的なイベントなどはありますか?

細川:この本が出る直前に行なわれた「あきねっと」ですね。「ageHa(新木場にあるSTUDIO COASTで行われるイベント)に2000人以上の人が入った」という点で業界関係者もかなり驚いていました。あと普通クラブイベントはオープンしてから徐々に人が入って、終電がなくなるくらいにフロアに人が一番いるのですが、「あきねっと」では23時のオープン時に行列ができていて。オープンからラストまでいないともったいない、というライブに近い感覚で集まったお客さんが多かったんでしょうね。

 

●イロモノではない、ホンモノのDJが揃う『秋葉系DJガイド』

――そうした盛り上がりのなか、発売された『秋葉系DJガイド』について伺います。このムックのコンセプトは?

細川:『GROOVE』本誌もあっての別冊なので、あくまで硬派に取り上げるという点です。秋葉系だからと言って、イロモノとして見られるような取り上げ方はやめよう、と気をつけました。

――表紙もイラストなどではないですね。

細川:イラストという案もなくはなかったのですが、イラストになるとどうしてもテイストの好みの問題もあるし、アニソン中心になって、“その他”としてボカロやアイドル、ゲームミュージックというイメージになりそうなのでやめました。あくまでこの本では、秋葉系DJとしてこれらを同列で扱っているので、表紙は勘違いされないよう、DJの写真にしています。

――内容はどうやって決められたのでしょうか。

細川:『GROOVE』本誌でこれまでやっている企画をベースにしたものが多いですね。まずベテランDJ3人の対談で現在のシーンを俯瞰して、実際にクラブイベントやクラブがどんなものか紹介して。それでメインとして秋葉系DJ50人の紹介があって。あとは「この本を読んでDJを始めてみたい」という人向けに機材を紹介して、最後に『GROOVE』本誌でも人気企画なのですが、DJが何を考えて、どういう曲順でかけていくかがわかる「選曲解剖」というコーナーでフィニッシュです。

――この本で特に“ウリ”となるのはどの辺りでしょうか。

細川:「初めてメディアで紹介されるDJが大多数」という点ですね。類書はないと断言できます。

――紹介されているDJ50人はどうやって決まったのでしょうか。

細川:オブザーバーとして協力してもらった人が何人かいて、彼らの意見も参考にしながらまず100人ほどリストアップして。それからイベントをされている回数や頻度、SNSを含めた影響力などで決めました。

――有名なDJばかりだと思うのですが、100人もリストアップされていたんですね。

細川:まだまだ紹介したくてもできなかったDJもいます。「月あかり夢てらす」(川崎にあるアニソンメインのクラブ)で「DJ100人」というDJが100人も出るイベントがあったのですが、すぐに100人が決まったそうです。やはり今、秋葉系DJはすごく増えています。さすがに生業としている人は少なかったですけど。

――変な話ですが、みなさん取材慣れしてましたか。

細川:いえ、「プロのカメラマンに写真を撮ってもらうのは初めて」という人が7~8割くらいでしょうか。コスプレしようとしたら「やめなよ、親戚の人とかも見るかもしれないんだから」って一緒に撮影現場に来ていた奥さんに止められていたDJもいましたね(笑)

――秋葉系イベント初心者にオススメのイベントはありますか。

細川:この本で紹介させてもらった秋葉原のMOGRAや川崎の月あかり夢てらすに行けば、何曜日に行ってもある程度アニソンやアイドルと親和性のある音楽はかかっていると思います。それらのクラブの看板イベントや、平日夜に渋谷でやっている「アニゲのん!」などが初めての人にはオススメですね。

――最後に、秋葉系DJ界隈で今後やってみたいことを教えてください。

細川:まず、本当はこの本に付随するような形でイベントをやりたかったんですよね。まさか50名の方々が総出演というわけにもいかないので、出演DJのセレクトは難しいところですが(笑)。あと売れ行きが好調ならこの本の第2弾やDJ目線でのディスクガイドとかも作りたいです。過去の曲から2010年代の曲とかも入っているようなの。秋葉系DJは若い子が多く、ベテランDJが持つボキャブラリで伝えきれていないものがあるでしょうし。アニソンで作れればボカロやアイドル、ゲームミュージックなどでも作れそうですね。

――期待しておきます。本日はありがとうございました。

文=はるのおと