『ダ・ヴィンチ・コード』のラングドン教授最新シリーズは、ダンテ『神曲』のナゾ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

ハーバード大学で宗教象徴学を専門とするロバート・ラングドン教授が数々の謎に迫る、ベストセラー作家ダン・ブラウンによるシリーズ最新作『インフェルノ』上・下巻(ダン・ブラウン:著、越前敏弥:訳/角川書店)の邦訳がついに発売となった。書店などでは軒並み売上げ1位となるなど相変わらず高い人気を誇っているが、知的好奇心をそそる歴史上の遺物や出来事、宗教や科学、世界の謎などをモチーフに、観光名所ガイドにもなりそうなロケーションで追跡劇が展開する、極上のエンターテインメント性が読者を惹きつけているのだろう。

ラングドン教授が活躍するシリーズは、イタリア・ローマを舞台に秘密結社イルミナティやバチカンのコンクラーベが登場する第1作『天使と悪魔』上・中・下巻(ダン・ブラウン/角川書店)からスタートした。次作の『ダ・ヴィンチ・コード』上・中・下巻(ダン・ブラウン/角川書店)ではフランスとイギリスで「モナリザ」や「最後の晩餐」などの名画に隠された秘密や聖杯伝説を追い、第3作『ロスト・シンボル』上・中・下巻(ダン・ブラウン/角川書店)ではアメリカ建国にまつわる秘密やフリーメーソンについてワシントンD.C.を駆け巡るなど、ラングドン教授は世界各地で見知らぬ敵に命を狙われながら、建築物や美術品に隠された謎を圧倒的な知識を駆使して解き明かしてきた。そして一緒に謎を追うことになる頭脳明晰な美女(もちろん毎回違う女性!)や、あっと驚く急展開やどんでん返し、そして一歩間違えばトンデモ科学になりそうな最新研究までもが盛り込まれ、虚と実が入り混じった、ミステリアスで手に汗握るスリルとサスペンスてんこ盛りの壮大なシリーズとなっている。

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そのシリーズ最新作は、ラングドン教授が頭に怪我をして病院のベッドの上で意識を取り戻すところから始まる。しかも数日間の記憶がすっぽりと抜け落ちていて、窓の外を見るとそこはアメリカ・マサチューセッツ州ではなく、イタリアのフィレンツェという衝撃的な状況で、何に巻き込まれているのかまったくわからないところを襲撃され、女性医師のシエナ・ブルックスと共にダンテの『神曲』をめぐる謎を追うことになる。大機構という謎の組織や、銃を持つ殺し屋、黒ずくめの一団などに執拗に追われ、舞台はイタリアからシリーズ初となる欧米以外の地でも展開する。さらにラングドン教授は、トレードマークであるハリス・ツイードのジャケットや両親からのプレゼントである大事なミッキーマウスの腕時計までも失くしており、イタリアの高級紳士服メーカー「ブリオーニ」のスーツ姿というのもこれまでにない状態で、しかも人類を巡る地球規模の壮大なストーリーとなっているのも本書の特徴だ。そして作品をより楽しむために、パソコンやタブレット、スマートフォンを傍らに置き、文中に出てくる建造物や美術品、歴史や人名を調べながら読むと、より深く楽しむことができるのでオススメだ。

今回モチーフとなっている『神曲』とは、イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリによって14世紀に書かれたといわれており、ダンテ自身が地獄から天国を巡る物語を詩で綴っていて、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3つのパートに分かれている(本書のタイトル『インフェルノ』とは「地獄篇」のこと)。名作だけに日本語訳も豊富で、角川書店、岩波書店、河出書房新社、集英社など各社から出ており、青空文庫やKindleなどの電子書籍でも読める。さらには『ダンテ神曲』(永井豪/講談社)や『まんがで読破「神曲」』(イースト・プレス)などの漫画、画家ドレの挿絵を使った『ドレの神曲』(ギュスターヴ・ドレ:画、谷口江里也:訳・構成/宝島社)、読みやすい『やさしいダンテ <神曲>』(阿刀田高/角川書店)などもあり、解説書である『謎と記号で読み解くダンテ『神曲』』(村松真理子/角川書店)や『誰も書かなかったダンテ『神曲』の謎』(ダンテの謎研究会/中経出版)も豊富なので、『インフェルノ』の読後には、ぜひダンテの世界にも触れてみて欲しい。

それにしても名門大学の世界的に有名な教授なのに、毎度毎度、謎の組織に狙われて大変な思いをするラングドン教授。大学や学生から「先生、いい加減にしてください!」と叱られたりしないのだろうか?(笑)

文=成田全(ナリタタモツ)