全世界で200万部達成! 万が一のゾンビ大発生にそなえたサバイバルガイド

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公開日:2013/12/17

 現在、流行中の海外ドラマ『ウォーキング・デッド』をはじめ、何かと話題のゾンビ。2013年には、ゾンビが人間に恋をする『ウォーム・ボディーズ』や『ワールド・ウォーZ』などの映画も公開されたが、ゾンビ発生はいまや対岸の火事ではないことをご存じだろうか?

 マックス・ブルックス『ゾンビサバイバルガイド』(マックス・ブルックス:著、卯月音由紀:訳/エンターブレイン)によれば、日本でも1611年にゾンビが発生しており、「生者一党」なる秘密結社が、うめき声を上げるゾンビの首を壁に掲げた寺院を本拠地にしていた……という話があるのだ。

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 と、その前に『ゾンビサバイバルガイド』とは何かと首をかしげる、危機感の足りない読者のために解説しておこう。本書は、前出『ワールド・ウォーZ』(浜野アキオ:訳/文藝春秋)の原作の著者マックス・ブルックスによる、ゾンビ襲撃から生き残るためのガイドブックだ。全世界で200万部の大ベストセラーという事実を踏まえれば、いまこの世界がどれだけの脅威にさらされているかがわかるだろう。

 さて、日本ではその後、20世紀半ばまでゾンビ大発生の記録はないというが、周辺国ではいくつもの発生記録が残されている。もっとも新しい記録は、2002年。アメリカ領ヴァージン諸島のセント・トーマス島でのこと。ゾンビの頭を射撃した男は、のちに消息を絶っている。

 11年間、何もなかったではないかなどと言ってはいけない。Amazonの日本人のレビューにも、「近所でゾンビが沸いてしまったので重宝している」「基本的なことに過ぎない。もっと実践的なガイドがほしい」との声が並んでいる。

 本書にある世界のゾンビ発生記を一読すればわかるとおり、一度ゾンビが発生すれば「物理的な距離など、抑制力にはならない」。人間にあふれかえった地球とは、つまりゾンビが次々に生まれる環境だ。栄養素としてでなく本能的に人間を獲物とするゾンビが発生したら最後、私たちにはゾンビになるか生き延びるか、どちらかの道しか残されていないのだ。

 本書は、第1章「不死者:伝説と真実」から幕を開ける。まずゾンビという生命体がいかにして生まれ、どんな性質を持っているかが説明されるのだ。いまだ調査中ではあるものの、歩く屍者を生むのは「ソラニュウム」というウィルスだ。これに感染すると、体の痛みや変色、発熱、痙攣などを経て、20時間後には心停止、脳波の停止を迎える。そして23時間後、蘇生。こうして生まれるのがゾンビだ。

 では、ゾンビが発生した、または対峙した際に備えて、私たちは何をすればいいのか。それを知るには、第2章「武器と戦闘技術」、第3章「防御法」、第4章「逃亡法」、第5章「攻撃法」、第6章「ゾンビの支配する世界で」を熟読せねばならない。

 残念ながら、第2章は銃に多くのページが割かれており、銃刀法の関係から日本人には応用不可能だが(本書でも第一に法律の順守が指南されている)、大丈夫だ。手裏剣や吹き矢の例もあるし、もっとも有効な武器は鋼製のバールだ。国民性としてつつましやかな日本人にとっては、防御法や逃亡法を頭に叩き込み、反芻練習するほうが有効に違いない。

 しかし注意したいのは、あらゆる面でハリウッド映画が参考にならないという点だ。たとえば、よくパニックに陥った人々がよくする、スーパーマーケットに逃げ込むという行動は自殺行為だ。映画を見ていても「キタキタ、キタコレ」と思うのだから、模倣していいはずがない。周囲を取り囲まれたら最後、立ち並ぶ人間は“食べ物の陳列”と化すだけである。そもそも、人の多い都市部は危険である。一部の権力者(かつ本書の優秀な読者)に、爆撃されるか火を放たれてしまうかもしれない。

 さらに第6章では、万が一、ゾンビがこの世を支配してしまったときの対処法も書かれている。だが、そこに待っているのは徹底的に文明から距離を置き、孤立状態を保つという手段に他ならない。ゾンビが死滅してしまえば、再び安全な文明の世がやってくるだろうが、一番なのは日ごろから対策を練っておくことだ。

 幸いにして、本書にはゾンビ発生を探知する兆候もきちんと記されている。世界のニュースに耳を澄まし、怪しいと感じたら、巻末の「大発生記録帳」に書き留めておこう。経過を追うのも、忘れてはならない。そう、帯にある通り、『ゾンビサバイバルガイド』は“全人類必携”の書なのだ。ありがたいことに、ペーパーバックなので持ち歩きにも適している。さぁ、早く書店に走れ!

文=有馬ゆえ