【第10回】ソーシャルゲームのDeNAが無料マンガに取り組む理由
公開日:2013/12/27
12月4日に、DeNAが無料電子マンガ配信サービス「マンガボックス」をスタートさせました。オリジナル作品を始め、講談社などのマンガ誌の人気作品やそのスピンオフも掲載するなど、かなり力の入ったサービスです。
ソーシャルゲームで急成長したDeNAが、いまなぜマンガに取り組むのか?広告も表示されないアプリでどうやってビジネスを成立させようとしているのか、など素朴な疑問をぶつけてみました。
「ソーシャル」に疲れた!?
――ソーシャルゲームのDeNAがマンガに参入と言うことで、どういう狙いがあるのかも気になるところですが、まずは現状を教えてください。
川崎:マンガボックスにはメールやソーシャルメディアなど様々な方法で拡散してもらう仕掛けがあるのですが、2013年12月4日のオープンから3日で、約8万件のシェアがありました。これは想定よりもかなり高いですね。平均してマンガボックスにアクセスするお客様の10%が、そういった何らかのアクションを起こして頂いています。
――ソーシャルメディアにシェア(拡散)することで、次のエピソードが読めるようになる、というのもユニークな仕組みですね。電子書籍というとソーシャルで読書体験を共有しようといった紹介がされますが、よりストレートだと思いました。
かわさき わたる
株式会社ディー・エヌ・エー エンターテインメント事業本部 企画推進部
川崎:やはりマンガだから「続きが読みたい」という力が強く働いていると思いますね。実は、DeNAにいる身なのに、僕自身は「ソーシャル疲れ」みたいなところがあってですね(笑)。
――え!? ソーシャルゲームであれだけ成功したのに?
川崎:もちろんソーシャルを否定するわけではないですよ(笑)。僕はコンテンツによってソーシャルメディアの使い方は違うべきじゃないかと思っているんですよ。マンガには「回し読み」って感覚は確かにあるけど、だからといって無理矢理ソーシャルに対応させてもそんなに楽しくないよねって。
であれば、ソーシャルメディアに対しては「マンガボックスの存在を拡散してもらう」という風に割り切って、その代わりに続きが読めますよという分かりやすい機能としたのです。
なぜ今DeNAが「マンガ」なのか?
――なるほど。そういった拡散の甲斐もあって好調な滑り出しと言えそうですね。それにしても「DeNAがなぜ今マンガ?」というのは気になるところです。
川崎:マンガに着目したのは、やはりゲームを手がけていたからという面は大きいですね。マンガボックスから生まれた作品をソーシャルゲームへ、ということは当然考えています。オリジナルゲームよりも、いわゆるIP(版権)もの作品の人気が高いという背景もあります。それを生み出す側にまわりたいという発想はありました。
特に日本ではマンガが原作となって人気コンテンツが生まれる傾向が強い。しかも、アニメや映画に比べると制作費用も低めです。したがって数を生むことができる。オリジナル作品を抱えることができれば、他社とのIPの取り合いにもならない。そういったところから検討が始まりました。
もちろん、ソーシャルゲームを原作にマンガやアニメなどを展開していく、というのは今後もやっていくのですが、ソーシャルゲームはその仕組み上、ストーリーに終わりがありません。これは個人的な意見ですが、その結果、どうしてもストーリーへの没入感は弱くなってしまう。モバマス(アイドルマスターシンデレラガールズ)のようにキャラクターのエッジが立てば、また話は別ですが。
――一方で、他の会社の人気マンガやそのスピンアウトを掲載するという取り組みも行っています。それはなぜですか?
川崎:DeNAが手がける完全オリジナルだけでは、良質な作品を多数生み出すことができません。電子書籍を手にとってもらうのって、相当ハードルが高い。本当にインパクトがある面白いコンテンツがたくさんないと、ユーザーの行動が変わらないということを、これまでも痛感してきました。したがって、出版社さんにも加わって頂いた方が、はるかにユーザーにとっての満足度が高いものになるだろうと考えたからです。そもそも「モバゲー」というプラットフォームも、様々なメーカーのゲームをラインナップさせて頂いていますし、考え方は同じですね。
独自の編集部を持ったというのもモバゲーにおいて内製でゲームを作っている考え方に近いものがあります。「ゲームを手がけていないのに、ゲームのプラットフォームのマネジメントなんてできない」のと同じように、マンガを自ら生み出す一連の工程を抱えている必要があるのです。
――『金田一少年の事件簿』など多くの作品の原作でも知られる樹林伸さんが編集長を務められることが話題になりましたが、編集者も抱えておられるということですね。
川崎:はい。樹林さんもよくここに来られて、原稿にアドバイスをもらっていますし、「週刊少年マガジン」や「ヤングマガジン」などで10年以上経験を積んでこられた編集者の方に参加頂いています。ここ吉祥寺の拠点に常駐されている方が4人、そのほかに3人ですね。
マンガ家さんはそれぞれの仕事場で作品を描いていますが、ここでも新人さんとアシスタントさんが作業を行っています。そこから生まれるオリジナルの連載は全30作品中、現在7作品で、企画中の作品も含めると数十名の方にお声がけをしているところです。
――そういったオリジナルに加え、『進撃の巨人』など他誌に連載中の作品のスピンアウトや、転載も行われているのもユニークです。マンガの場合、出版社自身もプラットフォーム=雑誌を持っている点が、先ほど挙げていたソーシャルゲームとは異なりますね。
川崎:そうですね。ただ、このように、オリジナルやスピンアウトなど様々な作品を混合させる見せ方はマンガボックス独自のものだと捉えています。モバゲーからの誘導も図りつつ、新しいアプリとして他の場所からもユーザーがやってきて、その数が増えてくれば作品への注目を集める新たな場所・媒体としての価値も出てくるはずです。
――モバゲーの場合、そこで例えばデジタルアイテムが売れればDeNAに手数料が入ってくるわけですが、マンガボックスは現在完全に無料です。どこで収益を確保するのでしょう?
川崎:アプリ自体は無料ですが、例えば掲載作品が電子や紙の単行本になって販売されれば売上となりますし、ゲーム化、アニメ化ということになれば原作料のような形で利益につながってきます。
これは出版社さんがこれまで取り組んでこられた雑誌と実は近いものがあります。雑誌自体赤字の場合も多く、雑誌単独で収益を確保するのは難しくて、やはりその後の展開で…というのが現状だと思いますので。
もちろん、ビジネス面だけでなく、マンガに対する「思い」がそこにはあります。樹林さんも会見で話をされていたように、いま、ゲームも含め、身近なエンターテインメントが時間の奪い合いをしている中、無料アプリという新しいスタイルのマンガの読み方を提供することで、マンガを読む人を増やしたい。また、時々現われるヒット作だけでなく、いろんなマンガ――いわゆるネットマンガっぽいものだけではなく――が広く読まれる世界を作りたい。そうすることで、マンガを作る人たちにとっても良い環境が生まれると考えています。
マンガの海外展開も視野に
――そういった裾野を拡げるというお話しにも通じますが、アプリでは、設定を切り替えるだけでセリフが全て英語になる仕掛けも用意されていますね。オリジナル・転載・再掲載と様々な作品が進行する中、作業も大変ではないかと思いますが。
川崎:そこはがんばっています(笑)。翻訳会社さんに作業をお願いしているのですが、原稿をお渡しして5日くらいで作業は完了していますので、ギリギリなんとかなっています。
――海外の読者からの反応があったりしますか?
川崎:全体の5%くらいが海外からの利用ですね。まだ大きくプロモーションを行っている段階ではないので、これからという感触ですが、海外のウェブ系のメディアに取り上げられたり、まだ配信していないインドネシアから「いつから始まるんだ」という問い合わせがあったりしました。
――一般的にマンガの表現に対しては海外の方が厳しい目で見ているとされます。またAppleは表現の審査が厳しいことでも知られますが、その辺りの対応は?
川崎:版元さんや我々の方でも気を付けてみていますし、翻訳会社さんの方で作業されている中で「これは危ない」という箇所があればお知らせ頂くようにしています。
――今後、英語以外の言語に拡大の予定は?
川崎:樹林さんとの話の中でも、海外展開というのは大きなウェイトを占めていますので、中国語などにも取り組んで行きます。
――なるほど。そういった展開の先に、発表会でも出ていた「いつごろ利益が出るのか」という問いに答えられるタイミングが訪れますか?
川崎:ゲームの場合、リリースすれば仮想通貨(モバコイン)が売れるわけです。実際、海外ではモバコインの売上は増え続けていますが、マンガボックスの場合はそういうわけにはいきません。エピソードが増えて、単行本化などの展開が見えて来る半年~1年後にならないと、というところですね。コミックも1巻だけで火が付く、ということはなかなかありませんし、アニメや映画となると更に時間が掛かります。
いずれは、マンガボックスから「今年のベストマンガ」に取り上げられるような作品も生み出したいと思っていますので、期待しておいてください!
モバゲーを展開するDeNAがなぜマンガに、というのが筆者の正直な第一印象でしたが、投稿小説サイト「エブリスタ」も展開してきたDeNAにとっては、自然な展開だったのかも知れない、とインタビューを終えて感じました。
編集部を置くというのもゲームなどの開発を内製するのと同じ理由というのも、頷けます。IT企業のトップランナーとして、マンガにどんな変化をもたらしてくれるのか、注目していきたいと思います。
>>「マンガボックス」の詳しい情報はコチラ