初詣行列の暇つぶしにも…、日本人ならば知っておきたい「日本建築」の見どころ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

日本のお正月、といえば初詣。日本で一番多くの参拝客が集まるのは、東京の明治神宮だ。その数なんと約313万人。2位は成田山新勝寺で約300万人、3位は川崎大師平間寺で298万人だという(2013年三が日の合計)。ちなみに横浜市の人口総数が3,703,852人(2013年12月1日現在)なので、いかに多くの人が三が日に神社や寺へ行っているのかがわかるだろう。しかしそのくらいの凄まじい混雑になると、お賽銭を投げ入れるまでにかなり長~い時間待たされることになる。そんな時間を楽しく過ごすためにオススメしたいのが『藤森照信×山口晃 日本建築集中講義』(藤森照信、山口晃/淡交社)だ。

建築史的モンダイ』(藤森照信/筑摩書房)などの著書で知られる、建築史家で建築家の藤森照信氏が建築の歴史や技法など見どころを教え、『ヘンな日本美術史』(山口晃/祥伝社)で第12回小林秀雄賞を受賞した画家の山口晃氏がその説明にフムフムと納得する対談と、写真と山口氏のイラストで構成される本書。

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初回、2人は奈良の法隆寺へ行くのだが、まずは「法隆寺は美しい」という話で始まる。部材や建物の配置、プロポーションに非の打ち所がなく、中でも回廊の効果がハッキリわかる、と藤森氏は力説する。そしてこの回廊に影響を受けたのが、建築家の丹下健三氏という話が飛び出し、山口氏は「ほぉ!」と驚く。法隆寺は大小の建物を散らして配置され、それを回廊でひとつの空間にまとめるという建築デザインとなっていると藤森氏が解説すると、丹下氏が設計した東京都庁もそうした手法になっていると山口氏が気づく。さらに回廊は絵を額に入れるように内側の空間を引き締め、周りとの境界線となる「枠」として機能している、と藤森氏が教えてくれる。

……のだが、二人の会話は脱線に次ぐ脱線をしながら、藤森氏は自分が興味のあるものはじっくりと鑑賞するが、それ以外はスタスタと通過するというかなりのせっかちで、スケッチをしていた山口氏が慌ててその後を着いて行くというボケとツッコミな関係が笑いを誘う、なかなかの珍道中っぷりだ。例えば山口氏が法隆寺の回廊の床の風化具合に年月を感じていると、「飛鳥時代の世界遺産の床がコンクリートではまずい」と藤森氏が指摘し、それにガーンとショックを受ける山口氏などは好例だろう。また多くの人が「法隆寺の柱はエンタシスで、ギリシャの影響を受けた」と社会科で習ったと思うが、それは間違いだという藤森氏の言葉にはさぞガーンとすることだろう。

とここで、三が日に社殿までたどりつくまでの長い長い時間の暇つぶしネタを。

寺社は檜で作られる場合が多いが、それは日本だけ。中国や韓国では松が使われることが多いそうだ。松は長い時間が経っても中から松ヤニが出るそうで、これで腐らないのだという。しかし日本は雨が多くて木が湿気で腐りやすく、松は虫にも食われる。その点、日本の檜は強く粘りがあって、加工もしやすく狂わない、そして腐らない(油分が多いため)と建材としては最高のものという。とはいっても縄文時代の建築は主に栗の木が使われていたそうで、檜になったのは弥生時代、本格的に神社仏閣の建材として使われたのは飛鳥時代くらいからなんだそうだ。

また神社にはよく太鼓橋があるが、なぜなのかご存知だろうか? それは「別世界へ行くため」の装置として機能しているからなのだそうだ。これはもともと平安時代に貴族が作っていた「浄土式庭園」から発したことなのだそうだが……詳しくは本書で!

法隆寺や西本願寺、日吉大社、投入堂などの神社仏閣だけではなく、千利休が作ったといわれる茶室の待庵や室町時代から残っているという民家の箱木千年家、有名どころの松本城に三渓園、修学院離宮、そして三菱創業者の長男が作った旧岩崎家住宅(庶民の憧れだった玄関脇の応接室の先駆けの家だそうだ)、さらには昭和初期に建築家の自邸として建てられた聴竹居(この家の細部へのこだわりはかなり変態!)など、興味深い建築物が数多く登場する本書。初詣のあとは、他の建物を見ながら建築談義なんてのも面白そうだ。

文=成田全(ナリタタモツ)