トトロに密着するメイに深い理由が!? 宮崎アニメの隠れた秘密

映画

公開日:2014/1/3

 先日発表された2013年の映画興行収入ランキングで、見事ナンバーワンに輝いた『風立ちぬ』。これが宮崎駿監督の引退作となってしまったが、「短編でいいから新作が早く観たい」という声も相変わらず根強い。

 そんな宮崎作品の魅力を解き明かしているのが、12月4日に発売された『好きなのにはワケがある 宮崎アニメと思春期のこころ』(岩宮恵子/筑摩書房)。本書では、臨床心理士である著者が数々の宮崎作品を分析。なぜ宮崎アニメに惹かれてしまうのかを、思春期の心の動きをもとに解読しているのだ。

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 たとえば、『千と千尋の神隠し』の冒頭で登場する、主人公・千尋の両親がブタになってしまう衝撃のシーン。実際に親がブタになってしまうようなことは絶対にないし、普通に考えればコミカルな場面なのに、なぜかトラウマ級の恐怖を覚えた人も多いはず。だが、じつはこのファンタジックなシーンも、現実の子どもの心と照らし合わせて考えてみると、とてつもなくリアルだということがわかる。

 千尋は小学4年生の設定だが、著者によるとこのくらいの年齢というのは“自己意識が芽生える時期”なのだそう。この自己意識の芽生えと同時に、子どもは“絶対の存在だと信じていた親の人間としての弱さや汚い面に目が行く”ように。「親が自分よりもはるかに鈍くておおざっぱな感覚しか持っていないと感じて、なんだか失望してしまうこともあります」という。いわば親がブタに変身してしまうあのシーンは、「親の人間としての弱さとか自分勝手で表裏のある汚い面を見たとき」に感じた衝撃が描かれているのだ。この体験は、子どもにとっては「身を切られるほど辛く、強い不安と孤独を感じること」だと著者は綴っているが、そういった思春期の痛みがよみがえるからこそ、ブタになってしまうあのシーンは大人にとってもショックなのかもしれない。

 また、ジブリ作品のなかでもベストワンに挙げる人も多い『となりのトトロ』にも、子どもの心情が如実に表れたシーンがある。それは、メイがトトロに出会い、トトロのふかふかのお腹にぴったりとくっつく有名な場面だ。

 このシーンをはじめ、『となりのトトロ』はほのぼのとした印象だが、著者にいわせると、「母性の不在」をもとにした「なんとも言えない淋しさがベースにある物語」。サツキとメイはやさしい父親や近所のおばあさんに温かく守られてはいるものの、まだ幼いメイは「母性の欠如を感じ、世界に包まれている感覚が足りないと感じて不安定になっている」状態だという。だからメイがトトロにべったりと密着する様子には、「十分に一体感を味わって安心している」ことが伝わってくるのだ。

 満ち足りた幸福感をもたらす一体感──これを求めるのは子どもだけではない。人とうまく関われず、ちょっと寂しさを感じたとき。仕事に追われて疲れているとき。そんなときに『となりのトトロ』を観ると癒やされるのは、「ファンタジーによって世界と一体になることが可能になる」体験ができるからではないだろうか。

 「年末年始はジブリ作品を観て過ごすのが習慣」という人も多いかと思うが、ぜひ今年は本書を片手に、宮崎作品を通して思春期だったころの自分とあらためて出会ってみるのも、きっと悪くはないはずだ。