ワンピースはなぜ売れた? 日本人が今求めているもの

社会

公開日:2014/1/10

 年末になると毎年発表される「今年の漢字」や「ユーキャン新語・流行語大賞」。その年の世相を表すものとして毎年取りざたされ、盛り上がっている。

でも、新しい年を迎えれば「去年は何が選ばれたっけ?」なんてこと、多いのでは?

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“一発屋”なんて揶揄されるお笑い芸人やタレントなど、人も同じ。入れ替わり、立ち代わり現れては消えていく。しかし、それでも根強い人気を誇る人物も。それこそ今の日本を象徴する“顔”と言えるかもしれない。そんな人物21人を取り上げて論評するのが、『新・日本人論。』(釈徹宗、速水健朗ほか/ヴィレッジブックス)だ。

 例えば、著述家・湯山玲子氏は、小泉今日子について語っている。彼女は、2013年流行語大賞にも選ばれた「じぇじぇじぇ」でおなじみのNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』に出演。アイドル時代から変わらぬ魅力をもって、気風がよくて、世間知と愛情のある「イイ女」を演じた。「小泉今日子がこれまで、第一線で人気を保ってきたのは、この国では男も女も非常に難しい、自由で自立した生き方、というイメージをブレなく保ってきたことにある」と湯山氏はいう。代表されるのが、84年の全盛期に事務所に対し無断でやってのけた刈り上げヘア。アイドルは若い男性のバーチャルな恋人であり、売れるためには保守路線でいくべきところを、「ワタシがかっこいいと思うもの」を彼女は実行したというわけ。

 一方、ここ1、2年で一気に知名度を上げたのが、きゃりーぱみゅぱみゅ。ライター・リサーチャーである松谷創一郎氏いわく「“原宿アイコン”を標榜する彼女がここまでメジャー化することは、数年前まで考えられなかった」とのこと。サブカルチャーであり、常に傍流として位置づけられてきた原宿スタイル。ところが、ファストファッションである「GU」のCMに出演し、『ファッションモンスター』を歌い上げた彼女が、原宿の“個性”を“自由”に読み替えたという。

 さらに、『にんじゃりばんばん』や『インベーダーインベーダー』、『ふりそでーしょん』など、日本文化を強く意識した曲を次々と発表。2014年には2度目の世界ツアーを予定する彼女は、原宿アイコンであり続けながら、日本を代表するアーティストへと成長した。

 また、変わらぬ人気を誇る『ONE PIECE』を描く漫画家・尾田栄一郎も取り上げられている。2013年12月2日にオリコンが発表した、2013年年間“本”ランキングによると、コミック部門では同作の新刊第69巻~第72巻がトップ4を独占。また、コミックスの通算売り上げともなると、実に3億冊以上にのぼるという。出版不況と呼ばれるなか、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れ続けている。

 その人気の秘密を解き明かしているのが、編集者・ライターの速水健朗氏。彼は尾田栄一郎について、権力の現れ方、人民の掌握術などをかぎつける才能を称え、「権力マニア」と評している。そして、権力を掌握しないリーダー(ルフィ)によって作られた組織が、権力による組織を次々と撃破する痛快さが、この物語の人気の最大の理由と分析する。

 実際の社会で、一番身近に感じる権力の主体といえば会社。働く側にとっては都合の悪いあれこれを押し付けられ、いつの間にか望んでもいないのに、悪の海賊の一味の下っ端のような存在になってしまっている。会社員はモチベーションを「生活のため」という目的に向けて働く。だからこそ、「目的のため」「仲間のため」というモチベーションで動く、自由なルフィたちに憧れてしまうという。

 個性を埋没させながら、組織で働く日本人。本書に登場する新・日本人とは、“自由”を渇望する私たちが目指す姿なのかもしれない。

文=佐藤来未(Office Ti+)