卵子は確実に年をとる…、本当は怖い高齢出産のリアル

出産・子育て

更新日:2014/12/21

 「恋愛に興味がない」という、“絶食系”男子が増えてきた。「そもそも人を好きにならないし」と、“恋愛低体温”を決め込む女子も増えている。

 働く30代女性であれば「仕事がひと段落しなければ子どもは産めない」迷いもあるだろうし、男性なら「現在の収入では子どもをもつことは難しい」と、悲観的な人もいるかもしれない。社会的な背景や個人の事情が晩婚・少子化を加速させるのは、なかばいたしかたない。

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 実際、厚生労働省の発表によれば、女性が初めて出産する平均年齢は2011年に30.1歳と30歳を突破。40歳以上の出産は3万8280件と、10年前のおよそ2.5倍にまで増加している。35歳以上で出産する高齢出産の割合は、現在妊婦の4人に1人に当たる。恋愛も、結婚も、子どもをもつことも、人生の選択肢が多様化すること自体は決して悪いことではない。

 ところが、人の気持ちや世相は変われど、生物としてのヒトの体のメカニズムは、遥か昔から変わらない。男性の精子は、老人になるまで新しい細胞がつくられ続けるが、女性の卵子の細胞は、胎児の時期から卵巣の中につくられ、この世に誕生すると同時に、その持ち主と同時に年をとっていく。さらに、卵子は年を経るごとに、その数や質の低下および、染色体異常の頻度が増加していく。実は精子と卵子では、時間経過がまったく異なるのだ。

 まだ、関心があまりもてないし、詳しい知識ももちあわせていないという人は、『本当は怖い高齢出産 妊婦の4人に1人が35歳以上の時代』(週刊現代編集部/編 講談社)に、ぜひ目を通してみてほしい。

 本書は『週刊現代』(講談社)で連載された特集記事「高齢出産・不妊治療・出生前診断」をもとに、加筆再構成されている。東尾理子さんやジャガー横田さん、野田聖子さんなど、高齢出産や不妊治療を経験した著名人の実例を軸に展開しているのが特徴的だ。男性では、壮絶な不妊治療を経て、現在では1女2男の父となったダイアモンド✡ユカイさんが、男性不妊の現状について貴重な体験を明かしている。

 急増する高齢出産についての章は、東尾理子さんの告白から始まる。「結婚後、35歳になってから、妊娠、出産の適齢期が実は10年前だったと知ったんです。年をとるごとに妊娠率がどんどん下がっていくことも、45歳を過ぎると妊娠がほとんど難しくなるということも、自分で不妊治療を経験して初めて知りました」

 おそらくほとんどの女性が理子さんと同じような感覚をもっているのではないだろうか。衆議院議員の野田聖子さんも、自身を含め知識がないために子づくりが遅れてしまった「出遅れ不妊」の女性が多く、それは教育に問題があるのではないかと指摘している。

 では、高齢出産のリスクとはいったい何か。

 35歳を過ぎてからの高齢出産が不安視される大きな理由のひとつに、染色体の異常から、ダウン症児が生まれる可能性が高いことがいわれている。妊娠・出産年齢が上がるごとに、流産や先天性異常のリスクもまた増加するとされ、胎児の異常の有無の判定を目的として、妊娠中に実施する「出生前診断」への注目が高まっている。

 本書によれば、一般的に出生前診断で胎児の異常が見つかれば、中絶するのが暗黙の前提となっていることは否定できない、という。東尾さんは、胎児の異常の有無を確定する羊水検査を受けなかったことを、ブログに綴った。精神科医の斎藤環氏は「出生前診断の判断を絶対化しないためにも、著名人がこのように公表したことには意味がある」と支持している。

 しかし、50歳で第一子をもうけたサイエンス作家の竹内薫氏は、複雑な思いを抱えつつ、こう語っている。

「僕個人はクリスチャンなので、中絶には抵抗がある。障害は個性であるという考えにも賛成する。しかし実際問題、自分の現在の経済状況や、年齢の問題などを全て勘案し、今2歳半である娘のことも考えると、もしも次に子どもを授かる機会があるのなら、僕も妻も、必ず出生前検査を受けるつもりです」

 古今東西の名言をみても、基本的に「人生に遅すぎるということはない」と多くの人が言っている。だが、妊娠・出産には、確実にタイムリミットが存在する。いつか来るかもしれないそのときのために、女性はもちろん、男性も、一度立ちどまって、考えてみるべきではないだろうか。

文=タニハタマユミ