「オタク」の意味もポジティブに 新語4000の新「三省堂国語辞典」を旧版と読み比べ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

「(あざ)笑うことをあらわす文字」としての「w」が掲載されたことで話題となった、新語に強いことで定評ある、『三省堂国語辞典』の最新第七版。第六版から6年ぶりの改訂となるだけあり、「w」のようなネット用語をはじめとする、世間に広まった新語4000が追加されたという。いったいどのような語が追加されたのか? 新旧2冊の国語辞典を読み比べ、自力でその変遷を探った。

読み比べ完了まで、合計20時間強。予想どおりの地道な作業に、何度も挫けそうになった(ホントは1回挫けた)。まず第七版から、追加されたと思われる語を抜き出し、第六版にその語があるかを確認。2冊を並べ同時比較という手順をとらなかったのは、6年間で国語に起こった変化を、自分の感覚としてどれだけ掴めているのかを知りたかったからだ。第七版を読み終えた段階で、新語と思い抜き出したのが約600語。さらに第六版と付け合わせた結果、残ったのが300語弱。新語4000のうち、10分の1も発見できなかったことになる。すでに新語という感覚もなく使っている語が、それだけたくさんあるということなのだろう。また、後述するが、ずいぶん昔から広まっている語にもかかわらず、第七版で初めて採用された語も、結構な数あるようだ。

やはり目立ったのは、ネット界隈をはじめとするIT系の新語。「ツイッター」、「フェイスブック」など、第六版当時の日本にはなかったサービスや、関連する「つぶやく」、「なう」、「中の人」といった語が多数追加されていた。また第六版では「電子ブック」だったのが「電子書籍」、「写メール」が「写メ」になっているなど、6年間で呼び方が変わった語がいくつかあったのも、変化の著しい斯界ならではの特徴といえるだろう。

「鬼〔カワイイ〕」、「神〔アプリ〕」、「グッジョブ」、「ツンデレ」といった流行語も多数追加。並べてみると、やはりネットまたはアニメファンの間から生まれた語が目立った。ちなみに第六版では「特定の趣味にのめり込んでいる <内向的な> マニア」と解説されている「オタク」が、第七版では「特定の趣味にのめりこんで、くわしい知識を持つ人。ヲタ」と、ポジティブ寄りの解説に改訂されている点も興味深い。余談ながら、「大王」の項目にさりげなく「ダイオウイカ」の解説が追加されているあたりに、三省堂国語辞典の茶目っ気をみたような気がする。

「上から目線」、「KY」、「宅のみ」、「授かり婚」、「プチプラ」、「負の遺産」、「モンスターペアレント」など、この6年間の世相を反映するような語が追加されているのは、改訂でも特に意義ある点といえるだろう。どちらかといえばネガティブな印象のある新語が多いことからも、この6年の日本社会の変遷が伺えるというものだ。

一方意外だったのが、食関連の語がかなり多く追加されていた点。「アサイー」、「イベリコ豚」、「サムギョプサル」、「ジュレ」といった外国の食材やメニューのほか「味玉」、「粉もの」、「背油」のように、すっかりお馴染みの存在になっている語が、第七版で初めて追加されたという点がおもしろい。食に貪欲な国民性を、よりビビッドに反映したということなのだろうか。

そして。もっとも驚かされたのが、第七版で満を持して追加された、いわば“遅刻組”の語群。特に、「ジャズやロックなどの、小規模なライブ」という解説で「ギグ(GIG)」が追加されていたのには、正直腰が抜けた。ギグて。筆者の感覚では思いッきり80年代限定の流行語なのだが、もしや一周して流行していたりするのだろうか?

などなど、あえて通読してみることで、意外な発見がたくさんできた国語辞典。わからない語を引くという役割がネット検索に移行しつつある昨今、国語辞典を「読む」魅力に再注目してみるのも面白いと思った。

なお、残念ながら今回の第七版でも「巨乳」の一語を発見することはできなかった。いわんや「貧乳」においてをや。

文=石井一敏彦