スマホだけでは物足りない? ウェアラブルがもたらす未来とは

IT

更新日:2014/1/28

 「ウェアラブルコンピュータ(体に身につけるコンピュータ)」という言葉にまた注目が集まっている。アメリカでは限定的に発売が始まっているグーグルグラス(メガネ型)や、今年にも登場するのではないかと噂されるiWatch(腕時計型)などがその代表例だ。

 でも、スマホもあるのにどうしてまた新しいデバイスが必要なの? という疑問を持つ人も多いはずだ。本書『ウェアラブルは何を変えるのか?』は、かつてはITジャーナリスト、現在は作家という肩書きで執筆や講演を行う佐々木俊尚氏がその疑問に答えようとしたものだ。

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 氏はウェアラブルコンピューターのポイントは以下の4つだという。

1) ウェアラブルに適した新しいユーザー体験が出現する
2) センサーによって身体や物理空間がダイレクトにネットに接続される
3) ネットからのフィードバックを、コンテキストに沿って身体や物理空間が受け取る
4) それによって私たちの身体や物理空間は「モノのインターネット」が合体されていく。

 正直これだけでは何のことやらサッパリだ。そこで、佐々木氏はネット上の様々な情報源を引きながら、できるだけ平易な言葉や事例でそれぞれの意味を読み解いていく。例えば、2013年に一部でブームとなった活動量計Fitbit。腕にまいておくだけで1日の運動量を記録し、スマホ経由でデータがクラウドに送られ、記録されるというものだが、こういったデバイスが発展した先にこれらのウェアラブルコンピューターが控えているという。

 たしかに、スマホを身体にぴったりとくっつけておくわけにはいかない。軽くて生活防水も施されたFitbitのようなデバイスの出番だが、一方でせっかく腕にまいていても、スマホへのメールや電話の着信を知る事もできないのは少々物足りない。これから続々と登場されるというスマートウォッチで、スマホをわざわざカバンから出さなくても情報のチェックや、活動の自動記録ができたら便利そうだ。

 それをさらに一歩推し進めたのがグーグルグラスだと佐々木氏。写真や動画を音声操作で記録可能(しかし一方でプライバシーが心配)という面が強調されがちだが、地点情報とも連動し自動的に視界の中に情報が届けることが可能なメガネ型のデバイスは、キーボードで単語を入力して情報を検索するというこれまでのインターネットとの向き合い方を根本的に変えるというわけだ。小型化・省電力化が進むセンサーの進化がそれを支えていると指摘しながら、氏はそれを「身体とインターネットのダイレクトな接続」だと説く。

 一方で、私たちの活動が常に身につけたデバイスによって記録され、クラウドを通じてアップロードされ、サービス提供企業が活用できるようになるのは、やはりプライバシー上の心配も招く。昨年大きく取り上げられ結局撤回されたが、Suicaの記録をJRが他の企業に販売するというニュースも記憶に新しい。佐々木氏は十分な利便性が伴えば、その懸念は小さくなるのではないかというが、私たち個人が無意識に提供するデータと、そのお陰で受け取ることができるメリットをきちんと理解するのは難しい。法律の整備や、業界の自主的なガイドライン作りなどが求められるところだ。

 豊富な事例の紹介と分かりやすい文章でウェアラブルとは何かという概要を知るには適した1冊だが、「利便性が伴えば懸念が解消される」と結論付けた箇所など、ところどころ詰めが甘い印象を受けたのも事実だ。作家という肩書きで執筆を続ける氏は、「企業やキーパーソンを取材しなくても情報はネット上から入手できる」と公言し、本書もその手法で書かれているが、結果として筆者独自の視点や説得力には欠けるという印象も受ける。本書では日本企業がウェアラブル時代にも主導権を握れないのではないかと予測するが、その点については、当事者たるメーカー側の苦闘など生の声ももっと読みたかったところだ。

 本書は今年紙の書籍として刊行される『2020年のIT』(仮題)の前半部分を先行で電子書籍として発売したものだという。『当事者の時代』(光文社)という著書もあり、本書では「ウェアラブル」が「身体とインターネット」とのダイレクトな接続だと喝破する佐々木氏であれば、ぜひダイレクトに当事者に話を聞き、リアリティのある骨太な提言を次著では示してもらいたい。

文=読書電脳