シンガポールの食パンは緑色!? 世界の愉快なスーパーマーケット

海外

更新日:2014/1/29

 週末の夕方、駅前のスーパーに行くとイライラしてしまう。人でごった返した店内で、なかなか目的の棚に近づけず、レジ前には長蛇の列。前に並ぶ人が持つ買い物カゴに、山と積まれた品物を見てげんなり…。

 そういえば、以前海外旅行で行ったアメリカのスーパーは何もかもデカかった。陳列棚は端から端までとても長くて、棚の間の通路も広々としていた。そして、その棚に大量に積まれた商品は、珍しいものばかり。いちいちみやげ専門店などに行かなくても、十分面白くて安いおみやげを買うことができた。だけど、残念ながらジャケ買いしたチョコレートやスナックは口に合わない微妙な味が多くて、友達の反応はイマイチだった…。

advertisement

 そんな海外の国や地域のスーパーマーケットを垣間見られるのが、『スーパー!』(飛鳥新社)。デザインジャーナリスト・渡部千春さんが、2005年から8年間で出かけた53回の旅行で、資料として撮りまくった商品の写真がわんさか載っている。商品の種類によって分類されているから、地域の差が一目瞭然だ。

 例えば、パンの項目にある台湾の食パンは、それほど日本のパッケージと変わらない。でも、シンガポールの食パンは、ただビニールに詰められているだけに見えるが、なぜかピンク色に緑色がゆるく渦巻いたマーブル模様。おいしそうにも見えないが、キレイにも見えない。あえていえばカワイイ食パンだ。韓国の食パンのパッケージもまた、「食欲を喚起しない」と著者がツッコむ。シェフに扮したイケメンがポーズを決めてこちらに向ける涼しげな眼差しに、奥様方は思わず手を伸ばすかもしれない。しかし、一人食パンをトースターで焼くダンナが喜ぶことはないだろう。

 乳製品は、欧米とアジア圏で大きな違いがあるらしい。チーズやヨーグルトが基本の食材として食べられる中近東の国、例えばトルコでは、バケツのようにでかい容器に入ったヨーグルトが売られている。また、イギリスのチーズのパッケージは、熟成度を示す番号を大きく表示。実用面を重視したツッコミようがないデザインだ。著者によるとアジア圏では、なんとなくヨーロッパ風というイメージで作られたおもしろいデザインが多いという。文化の違いがわかりやすく反映している。

 また、タイの殺虫剤はインパクト大。2足歩行のゴキブリの絵が恐すぎるイラストや、アリの巣の絵が生々しいパッケージ、さらにその商品を食べてうずくまるネズミの死体4~5匹が大きく描かれたものも。気持ちが悪いけれど、いずれもいかにも効きそうなデザインではある。生死にも関わりかねない、熱帯地方の深刻な害虫事情がうかがえる。

 でもやっぱり一番おもしろいのは、お菓子。種類が豊富で地域性の高いものが多いから、見応えがある。ドイツのアイスは、オレンジやイチゴなどのフルーツ味なのに、なぜかロケットの形。パッケージには、宇宙を背景にフルーツとカラフルなロケット型アイスが浮かんでいる。韓国で撮影したという真っ赤なパッケージに描かれたスティック状のチョコレート菓子は、キットカットと思いきや「KicKer」のロゴ。本家に劣らず結構うまいらしい。イギリスの横から見るとティッシュボックスに見える箱は、ケーキが入っている。「中身が見えずちっともそそられない様子は、食に関心がないイギリスらしい」と著者は解説。

 また、キャラクター大国日本に負けず劣らず、世界のお菓子には不思議なキャラがいっぱい。ねずみのようなそうでないような表情豊かな動物や、白い髪と白い髭をたくわえたランプの精のおじさん、そして、ペロリと舌を出した顔はどう見てもペコちゃんだけど一応違うらしい金髪の女の子キャラも。

 筆者によると、消費者が1つの商品を見る時間は0.3秒以内という。その中で選ぶのだから、ほぼ反射神経のようなもの。目の前に並ぶ大量の商品を、視覚的に処理する。だから、パッケージデザインは、「すぐ見て分かる」ことが重要だという。

 客がパッと飛びつきたくなるようなデザインが施されたパッケージは、その地域に住む人々の嗜好や考え方が反映されている。地元の人にとってはフツーのことでも、離れた地域に住む人、さらにほかの国からきた観光客には、新鮮で珍しくて、思わずツッコみたくなってしまうわけだ。

 ちょっとのぞいてみるだけでも、発想の豊かさに飽きることのない海外のスーパー。いつも出かける近所のスーパーも、見る人によってはお宝が陳列されているのかも。

文=佐藤来未(Office Ti+)