極限の状態で自分を犠牲にできる? 宇宙飛行士の“心”のすごさ

暮らし

2014/1/29

 映画『ゼロ・グラビティ』が大ヒットしている。

 無数の宇宙ゴミ(デブリ)が宇宙ステーションに衝突して発生する大事故に巻き込まれた女性宇宙飛行士・ライアン博士(サンドラ・ブロック)が、絶望的な状況の中、諦めず最後まで「生きる」ために知恵と勇気で立ち向かうというヒューマン・サスペンスだ。

 その圧倒的なリアリティと美しい映像で、宇宙空間に人間が存在することの素晴らしさを見せてくれると当時に、宇宙空間が生命体にとっていかに困難で厳しい場所なのかを観る者に教えてくれる。

 次から次に起こるトラブルと、そこにまつわる選択や解決へのギリギリの挑戦のすべてが、ひとつ誤れば「死」へと直結する。ネタバレになるので詳しくは語らないが、実際に「命の選択」を迫られる場面が本編にある。映画だと分かって見ている我々ですら、泣きたくなるようなストレスフルな状況下で、自分を見失わない宇宙飛行士の「強い心」は、一体どうなっているのだろうか? 連続宇宙滞在期間167日間の日本人最長記録保持者(2014年1月時点)である古川聡さんの著作『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』(マイナビ)に、その答えを探してみた。

 古川さんたち宇宙飛行士は、宇宙へ行く前に数々の訓練を受けるが、その中でも重要なのが「NEEMO訓練」と「NOLS訓練」だろう。

■死を身近に感じる「NEEMO訓練」
 「NEEMO」とは、NASA Extreme Environment Mission Operations(NASA極限環境ミッション運用)の略で、フロリダ沖20km、水深20mに設置された海中研究室「アクエリアス」で行われる訓練だ。施設に滞在する1週間ほどの間に、潜水服を着用して海中で月面基地の模擬建設や、低重力下で宇宙服のどこに重心を置けばいいのかなどの実験を古川さんは行った。空気がなく、動きも自由にならず、すぐに水上に出られない海中での訓練は宇宙飛行同様に危険と隣り合わせであり、ストレスが伴う。古川さんも、訓練開始前に遺書を書いたという。

■チームで困難を乗り越える「NOLS訓練」
 NOLSとは、National Outdoor Leadership Schoolの略。厳しい自然環境下で、教官と候補生たちの10人程度でチームを組み、一定の期間、毎日の課題を遂行していく訓練だ。毎日リーダーを交代し、リーダーシップとフォロワーシップなどのチームワークや、トラブル時の判断方法、ストレスへの対応方法などを学ぶ。古川さんの場合は、ワイオミングの山で2週間の訓練が行われ、重さ約25kgのバックパックを背負って、高度2600mからスタートし、4000m以上まで登るなどしたという。ハリケーン接近を受け、急遽予定を1日繰り上げて下山するなど、予想外のアクシデントなどもあった。宇宙に出る前からすでに、生死の危険を想定し、実際に訓練において経験しているのだ。

 そういった数々の訓練や宇宙での経験を通し、古川さんが得た「心の鍛え方」が、本書にはいくつも記されている。
・他人への指摘は「人」ではなく「意見」に対して
・「配慮」はしても「遠慮」はしない
・積極的に周りに助けを求める
・同じ志を持つ仲間を見つける
・リスクはゼロにはならない。リスクを正しく理解することでコントロールできる

 そして古川さんはこうも記している。

 「最善を選択しあきらめず取り込める心こそが、宇宙飛行士が必要とするもの」であり、またこれは「生きるうえでも必要なことなのかもしれません」と。これは、映画『ゼロ・グラビティ』においても強く描かれているものだ。

 仕事や人間関係、日々の生活に迷いや不安があるあなた。本書を読んで「心の鍛え方」を学んではいかがだろうか。「生きる」ために。

文=水陶マコト