テルマエ作者ヤマザキマリが惚れ込むローマ男子の魅力とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

女性の多様な生き方が認められるようになり、それに対応するかのように「草食男子」といった求められる男性像も変わってきている。いい男の条件は時代を超えて延々と討論されてきたテーマだが、マンガ『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)の作者ヤマザキマリ氏が魅力的な男性を語った『男性論 ECCE HOMO』(文藝春秋)が今、話題となっている。

テルマエ・ロマエ』は古代ローマで浴場(テルマエ)の設計技師をしているルシウスという男性が主人公。彼は現代日本の銭湯にワープし、異文化や最新技術に刺激を受けては、古代ローマにもどってそれを生かすというコメディ色の強い作品だ。

advertisement

人生の大半を海外で過ごし、自身も古代ローマやギリシャに深い造詣を持っているヤマザキ氏は、ルシウスのような「寛容性」と「ダイナミズム」と「増長性」を持つ古代ローマ人に理想の男性像が重なるという。

例えば、紀元110年代~130年代に在位についたハドリアヌス帝。ヤマザキ氏いわく「マイペースな天才」で「戦争よりも文化と芸術を愛する」皇帝として知られる彼は、それまでの戦争によって領土を広げる帝国拡大路線ではなく、広大な帝国において「国境をなくし、他民族が普通に行きかうことのできるあり方」という新のグローバリズムを目指したという。支配下においた他国の宗教や慣習、文化で良いところがあれば、どんどん取り入れていった「寛容性」と「増長性」が、国に豊かさを下支えしたと分析している。

また紀元70年代に、『博物誌』という百科全書を記した、通称大プリニウスと呼ばれる知識人もヤマザキ氏の理想の男性のひとり。莫大な読書量・知識量もさることながら、彼の一番の魅力は好奇心の強さ。なんと彼は、噴火を見に行った際に「あのキノコ雲はなぜあんな形になるんだ!」と山に近づいて噴火に巻き込まれて死ぬ、という劇的な人生の幕引きをしている。一見すると荒唐無稽な男性にも見えるが、ヤマザキ氏は「自分の死より、今目の前で起きていることを知りたいという好奇心を満たすこと。いわば、精神性の充溢のほうに優先順位を置いた、規格外の人物」とダイナミックな人物像に強くひかれているようだ。

ヤマザキ氏が「時代を超えて惚れていたかもしれない男」と話すのが、ルネサンス期に活躍した画家ラファエロ・サンティ。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティらが上流社会からの庇護を受けて自分の好きなように創作している中、ラファエロは注文請負で肖像画の創作を引き受け、文化と経済を結び付けながら、人気とお金を得ていった時代を先取りした男。多くの弟子を従えながらも、威圧的に振る舞うことなく褒めて伸ばし、弟子の才能に触発されていたという。彼は作品のメイン部分の創作を弟子に譲ったこともあり、ヤマザキ氏はその謙虚さを「本当のプライドがないと出てこない」と絶賛。ラファエロに「寛容性」と「ダイナミズム」と「増長性」を感じたとつづっている。

ヤマザキ氏のいうところの「寛容性」と「ダイナミズム」と「増長性」は、要は既存概念を取り払い、柔軟な思考で物事を捉えるということ。他者の優れたところを、貪欲に自らに取り入れること。こういった男性像は、どんなに時代が変わろうとも、愛される男なのかもしれない。