なぜ人の心は生まれたのか? 進化生物学で解説

科学

公開日:2014/2/10

 コミュニケーション能力を上げるための本は数多くあるが、そんな中で一風変わっているのがこの本、『はじまりは、歌だった「つながり」の進化生物学』(朝日出版社)。そもそも、コミュニケーションとは何なのか、心とは何なのかを、人間以外の動物と比較して分かりやすく解説している。もともとは高校生へ向けた講義であるため、まったく知識のない人でもすんなり読みやすい。

 筆者の岡ノ谷一夫(東京大学教授)氏は、動物行動学者である。小鳥の進化と機構から、人間の言語の起源についてヒントを得る研究や、動物と人を比較し、言語と感情の起源を探る研究をしている。本書の他にも『ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係』(吉田重人共著/岩波書店)、『言葉はなぜ生まれたのか』(石森愛彦:イラス/文藝春秋)、『さえずり言語起源論 新版小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岩波書店)、『言葉の誕生を科学する』(小川洋子共著/河出書房新社)といった本を出している。

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 今回、この『「つながり」の進化生物学』の中から、印象的だった内容をいくつか紹介しよう。

■死ぬのが嫌なのは言葉があるから!?
 大抵の人間が、漠然と“死ぬのが嫌”と思っている。しかし人間以外の動物には、そういった概念がないらしい。人間は、先のことが考えられる。だから怖い。そしてそれは、言葉があるからなのだそうだ。「言葉を使って、自分の将来のことを考えられる」からこそ、「自分が存在しない明日」があることが分かり、死が発見されるのだとか。

■哲学的ゾンビとは!?
 思わず笑ってしまいそうなネーミングだが、哲学で使われる言葉なのだそう。意識があってこそ可能だと思われている人間らしい行動も、実はロボットでも可能で、本当は意識があるようにふるまっているだけの人間もどきではないのか、という考えのことを言うそうだ。意識の有無は自分にしか分からないため、他者に意識があるという証明ができない。

■心はひとりじゃ生まれなかった!?
 「自分の心は、他者に心を仮定する能力の副産物」であるという「心の他者起源説」という仮説があるそうだ。つまり、自分の心は自分のものである気がしているが、実は、他者とのやり取りがなければ心はなかったのでは?ということ。岡ノ谷氏は、「心が、コミュニケーションが生み出した、最も重要なもの」であると述べている。

 この他にも、様々なテーマがイラストと共に分かりやすく面白く書かれている。この本を読んでいると、言葉やコミュニケーションなど、人間が進化する過程で重要な役割を担ってきたものが、いかに重要を改めて考えさせられる。中にはまだ解明されていないテーマもあり、読んでいて様々なことを追求してみたくなる。また、コミュ障の人は、その理由や改善法も見つかるかもしれない。内容ごとに細かく区切って短くまとめられているので、まずは目次で興味のある項目を探してみよう!

文=月乃雫