読売新聞×ダ・ヴィンチ ミステリーブックフェア2014 【座談会】今野 敏×貫井徳郎×誉田哲也×湊 かなえ

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公開日:2014/2/23

今野 敏×貫井徳郎×誉田哲也×湊 かなえ

全国のフェア参加書店で実施している「ミステリーブックフェア」。2014年の実施にあたり、ミステリー作家4名によるスペシャル座談会が行われました。ミステリー小説についてのそれぞれの想いや、作家の日常とは? 人気作家たちのトークをお楽しみ下さい。

主催=ミステリーブックフェア実行委員会
後援=社団法人日本推理作家協会、日本出版販売株式会社、読売新聞社


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<日本推理作家協会とは>
ミステリーと関わりのある作家、評論家、翻訳家、漫画家など、さまざまなエンターテインメントの担い手が結集した文芸団体。その歴史は江戸川乱歩を中心とした探偵小説関係者たちの親睦会として、終戦後の1946年から月に一度開かれていた「土曜会」から始まる。毎月、各界からのゲストを招いて開催されていた「土曜会」だが、やがてきちんとした作家クラブを作りたいという気運が高まってきた。横溝正史、水谷準、角田喜久雄らの提唱を受け、保篠竜緒が規約の原案を作成、江戸川乱歩、水谷準、延原謙らがこれを検討し、47年6月21日、「探偵作家クラブ」が発足された。初代会長は江戸川乱歩。会報の発行や探偵クラブ賞(現在の日本推理作家協会賞)の授賞、探偵小説年鑑の編纂、55年にスタートした江戸川乱歩賞の授賞などで推理小説の普及・発展に努めている。


■現実が想像力を凌駕する時代の小説

今野敏
こんの・びん●1955年北海道生まれ。78年、「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞し、デビュー。2006年に『隠蔽捜査』で第 27回吉川英治文学新人賞、2008年に『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。著作多数。

司会:近頃は小説も真っ青というほど奇妙な事件や事故がたくさん起こっています。ミステリー作家にとってやりづらい世相になったと感じる事はおありですか?

今野:それは特にないですね。小説のリアリティというのは、現実のそれとは別のものですから。

貫井:現実に起こった事件がどれほど奇妙でも、それをそのまま書いては小説にはなりません。

今野:そう。たとえば、最近起こった冷凍食品への薬物混入事件のようなものを小説にしたら、読者は絶対に納得しない。動機や犯人のキャラクター設定が不自然だと言われておしまいです。

湊:現実の事件の方が不条理というか、理由がつかない事がいっぱいありますよね。数年前に一人の女性が次々に男性を騙し、金銭を巻き上げては殺していったという事件がありましたが、もしあの事件が起こる前に同じような内容のプロットを編集者に提出したら、リアリティがないと言われてボツになっていたと思います。

誉田:確かに、「こんな女に騙されますか?」と突っ込まれるでしょうね。誰だって男を騙す女は魅力溢れる美女に違いないと思い込んでいますから。

貫井:そこが小説と現実の違いでしょう。小説のリアリティというのは、作品中での出来事や人物をどれだけリアルに感じさせるか、という点に尽きます。

今野:ミステリーは、小説世界内での蓋然性と自然性にこだわらなくてはいけません。だから、事件そのものが現実よりこぢんまりしたものになってしまうこともある。とはいえ、貫井さんのような本格や新本格系のミステリーを書く作家は大変でしょうね。アイデアの良し悪しが作品の中でものすごいウェイトを占めるじゃないですか。トリックを思いつかない時は地獄の苦しみだと思う。

貫井:だから、本格ミステリーの作家はみんな寡作気味なんですよ(笑)。

今野:気持ちはわかるけど、推理作家協会の理事長としては「もっとたくさん書こうよ」と言いたいね(笑)。

■小説家であり続けるために

貫井徳郎
ぬくい・とくろう●1968年東京都生まれ。93年『慟哭』でデビュー。2010年に『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で 第23回山本周五郎賞を受賞。近著に、作家デビュー20周年を記念した『北天の馬たち』。ほか『灰色の虹』『ドミノ倒し』など著書多数。

貫井:今野さんは今どれぐらい連載を持っているのですか?

今野:今は月に六本です。

湊:それはすごい!

誉田:僕には無理だなあ。作品ごとに頭を切り替えるのに苦労しませんか?

今野:それはないですね。僕の小説はどれも似たり寄ったりだから大丈夫なんだろう(笑)。

貫井:またまた(笑)。

誉田:僕なんて、スケジュールの都合で連載が三本重なる月があると、もうその一、二ヶ月前から憂鬱になります。

司会:スケジュールが過密になると、執筆そのものが嫌になったりするのでしょうか。

誉田:いや、アイデアが出てこない時は結構つらいけど、書くのが嫌になるなんてことはないです。

貫井:僕の場合、最初は趣味で小説を書き始め、それが高じて小説家になったものですから、今でも小説を書くのが仕事という感じはあまりないんです。行き詰まってつらかった時期はありましたが、辞めたいと思った事は一度もありません。

誉田:作家に限らず、どんな道でもプロはみんなそうなんじゃないかな。たとえば、スポーツ選手は勝つために日々厳しいトレーニングに励みますよね。一般人からしてみれば、体を酷使する毎日は地獄に見えるけれど、当の本人たちは平気。それと同じで、作家も一年の大半をパソコンの前に縛り付けられていてもへっちゃらなんです。

誉田哲也
ほんだ・てつや●1969年東京都生まれ。2002年に『妖の華』で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞、03年に『アクセス』で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。著書に『ストロベリーナイト』『ジウ』『武士道シックスティーン』『増山超能力師事務所』など多数。

貫井:むしろ、物を書くという作業を継続できる快感の方が勝りますね。仕事、趣味を問わず、ずっと続けてやれているというのは自信にもなりますし。

誉田:そうですね。どんなジャンルでも「向いている人」というのは、他の人が苦痛に思うような事を苦痛に感じず、ずっと続けていける。もしかしたら、それが才能というものなのかもしれない。

今野:何であれ継続できるかどうかは大きな鍵です。作家の場合、新人賞を獲ったからといってすぐ職業作家になれるのではなく、受賞後にどれだけがんばったかで結果が変わります。その過程においては、必ずいくつかの選択肢が出てくる。作家一本でやっていくのか、それとも就職するのか。就職したらしたで、今度は何年か勤めてから辞めるのか、それともそのまま続けるのか。選択肢が目の前に現れた時、本当にやりたい事は何なのだろうと真摯に自分と向きあえるかどうかが重要です。僕は、やりたい方を選択していたら自然と作家になっていました。だから、作家になってからの三十五年間、書くのをやめようと思った事は一度もありません。

湊:実は私は、やめたいと思う事が定期的にあります。ですが、ありがたい事に常に何かの締め切りがあったり、次の仕事のお話をいただいたりしているので、くよくよ考えている暇があったら仕事をしなきゃと思い直し、あまり深くは考えないようにしてきました。だから、なんとかやってこられたのかもしれません。それに意地もあります。私が作家をやめたとして、ぽっかり空いたその場所に入ってくる誰かがいると思うとそれが悔しくて、絶対にこの椅子からどくものか、と。

今野:そのぐらいの気持ちになって当然です。作家を続けていく中で何が一番つらいって、自分より先に売れていく人間の姿を見ることかもしれない。デビューはしたものの、いつまでたっても鳴かず飛ばずだと、なんで俺は認めてもらえないのだという悔しさが湧いてくる。これはつらいですよ。だけど、純粋に創作すること自体がつらいはずがないし、もしそこがつらいのならば作家には向いていないから別の道を探した方がいい。これは他の職業でも同じだと思います。

誉田:今はちょうど新しい生活に入る人が多くなる季節ですが、これから道を選ぼうとする人たちに言えることがあるとすれば、この道ならば甘んじて苦痛を受けることができる、むしろ苦痛とは思わないと感じられるかどうかをひとつの判断基準にすればいい、というところかもしれません。

■時間の使い方を考える

湊かなえ
みなと・かなえ●1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞、同作所収の『告白』が第6回本屋大賞を受賞。 12年『望郷、海の星』で第65回日本推理作家協会賞を受賞。14年春、『白ゆき姫殺人事件』が映画化。ほかの著書に『高校入試』『母性』など。

湊:社会人になると時間が自由に使えなくなると思うかもしれないけれど、私は時間に縛られるのも悪くないと思っています。もし、私が「本当にいいものが書けるまでいくらでも時間をかけてください」というような注文ばかりを受けていたら、まだ二~三冊しか書けていなかった事でしょう。締め切りがあるから、なんとしてでもアイデアをひねり出さなきゃとか、くだらない事でもいいからとにかく書いてみなきゃという風に、とにかく前に進んでいける。そうやって書いているうちに、「あれ、これはおもしろくなるかも」と、目の前が開けるような瞬間が出てくるんですよ。

今野:出てきますね。そういう仕事の仕方って、ちょっと聞くとすごくいい加減に聞こえるかもしれないけれども、実は脳の使い方としてとても合理的です。追い詰められて、ぎりぎりのところで脳がフル回転をすると、パッと何かがひらめいてくる。
湊:きた! と思う瞬間はありますよね。

誉田:もう本当にどうしようもなくて、ちょっと一服と思ってタバコを吸っていたらアイデアが浮かんだという事なら何度もあります。タバコ休憩は大事です。

今野:大きく同意しますね。

貫井:僕は小説を書く時にはあまり考えてないので、そのあたりはなんとも言えないなあ。

今野:あまり考えてないって、一体どうやって書いているんだ(笑)。

貫井:筆の流れのままに書く方なので。自分が書いているという意識ではなく、どこかにある物語を僕が引き寄せて書いているという感覚に近いのかな。

湊:一種のシャーマンですね。

貫井:でも、それがうまくいかない事がままあるから、問題なんです。

今野:貫井徳郎は天然であり天才であるという事がわかったのが、今回の座談会の収穫だね(笑)。

【取材・文=門賀美央子 写真=川口宗道】


本企画は、読売新聞全国版・書評欄と連動し連載されます。
座談会の続きは、4名の作家お一人ずつにフィーチャーして掲載!
3月2日掲載⇒貫井徳郎さん
3月9日掲載⇒誉田哲也さん
3月16日掲載⇒湊かなえさん
3月23日掲載⇒今野敏さん
続きは読売新聞紙上でお楽しみください。
 
また、『ダ・ヴィンチ』4月号(3月6日発売)には、座談記事のアナザーバージョンを掲載しますので、合わせてお楽しみ下さい。
 
*フェイスブックでも、座談会の内容・フェア情報などを随時更新! 詳しくは「ミステリーブックフェア2014」で検索!
「Honya Club」ウェブサイトにも本フェア特集が掲載! ぜひご覧ください。


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●宛先 〒103-8601 日本橋郵便局留 読売「ミステリーブックフェア」係
●締切 2014年3月31日(当日消印有効)
●問合 株式会社カワセミ内「ミステリーブックフェア事務局」 電話03-6661-6001(土・日・祝日を除く10~17時/2014年3月31日まで)

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