わざとかかることもできる? 科学的に解明された金縛りの秘密とは

科学

公開日:2014/2/20

 夜中に突然身動きが取れなくなる金縛り。経験したことがある人は、できれば2度と味わいたくないくらいの恐怖を感じるという。しかし、そもそも金縛りとはどんなもので、どんな状況で起こるものなのだろうか。1月20日に発売された『「金縛り」の謎を解く 夢魔・幽体離脱・宇宙人による誘拐』(福田一彦/PHP研究所)から、どうして金縛りが起こるのか、その謎に科学的に迫ってみよう。

 まず、金縛りは心霊現象や超常現象の一種だと思っている人もいるかもしれないが、実際は特殊なレム睡眠中に起こる睡眠麻痺と入眠時幻覚のこと。睡眠麻痺とは、「覚醒と睡眠の移行期に生じる一時的な全身の麻痺症状」で、入眠時幻覚は「入眠期に、自覚的には目覚めているときに体験する現実感のある鮮明な幻覚」を指す。金縛りにあった人は、多くの人が「胸やお腹に重さを感じる」というだろう。なかには、何か重いものが乗っているのを見たという人も。

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 しかし、実際に赤外線のモニターカメラで観察していても、金縛りにあっている人はずっと眼を閉じたまま。眉間にしわを寄せて苦しそうな顔をするわけでもない。実はこれ、レム睡眠中に睡眠麻痺が起きて呼吸が止まってしまっていることに対してなんとかつじつま合わせをしようとした結果、自分自身で胸やお腹に重いものが乗っているという「幻覚」や実際に乗っているのを見るという「幻覚」を生み出してしまうからなのだそう。

 また、一度金縛りにあった人なら、短時間で終了することも、危害を与えられるものではないこともわかっているが、それでも金縛りにあうと毎回強い恐怖を感じるはず。でも、こんな風に何度経験しても恐怖感を体験するのにも理由があったのだ。金縛りと同じく、夢を見るレム睡眠中には、主に、不安や恐怖、怒りといった負の感情と関係していると考えられている扁桃体が活性化する。金縛りに対する恐怖感は、これによって「自動的に起こされた付随症状」で、夢に悪夢が多いのもこのせいだと考えられているのだ。

 そして、金縛りになりやすい条件もいくつかある。ひとつは、仰向けで寝ること。日本人が金縛りにあったときの睡眠姿勢を調べてみると、その80%以上が仰向けだったのだ。逆に、椅子に座ったまま寝ると、睡眠麻痺にはならなかった。これは、姿勢を維持するために筋緊張を保たなければならない状態では、レム睡眠が出現しにくいから。逆に最も筋緊張を必要としない体勢だと金縛りになりやすいということ。

 もうひとつの条件は、寝る前の体調。最も多いのが「疲れていた」で、順に「嫌なことや心配事があった」「生活が不規則だった」「寝不足だった」と続く。それに、中学生約5000人のデータを集めると、夜更かしであればあるほど金縛りになりやすいという結果も出ている。加えて、夕方に仮眠をとってから夜0時を過ぎて眠る人は、より金縛りになる確率が高くなるという。これには、ちゃんとした理由がある。普通、睡眠は浅いノンレム睡眠から始まって深いノンレム睡眠に移り、しばらく経つと急に眠りが浅くなって、その後レム睡眠が出現する。しかし、夕方に長めの仮眠をとると、そこで深いノンレム睡眠が出切ってしまい、なかなか深いノンレム睡眠が出にくくなるそう。ストレスと生活の乱れがでる受験生に金縛りが多いのも納得。

 金縛りにあったことがない人は「一度くらいなってみたい」と思ったことがあるかもしれないが、超常現象でも心理現象でもなく、科学的にきちんと説明できるものなのだから、金縛りになりやすい状況を作り出すことはできる。ただし、長期にわたって睡眠習慣を乱すと健康にも影響するし、非常に強い恐怖感を伴うので、作者に言わせると「わざわざ金縛りになるのは『よしておきなさい』」とのことだ。

文=小里樹