聴覚障害の少女への壮絶いじめが話題 マンガ『聲の形』

マンガ

更新日:2017/6/4

 聴覚障害を持つ少女が壮絶ないじめにあうという内容が読者に衝撃を与えた『聲の形』(大今良時/講談社)。1月17日には2巻も発売され、「ぜひ読んで欲しい」と話題になっている。どんな内容になっているのか紹介してみよう。

 実は、2008年の「週刊少年マガジン新人漫画賞」で入選し、「マガジンSPECIAL」にて掲載される予定だったが、「聴覚障害者に対するいじめ」という題材から、掲載を見送られていたこの作品。しかし、編集部が(財)全日本ろうあ連盟との協議を重ね、読み切りとして掲載後、連載も開始された。そして、そんな読み切り掲載時から、あちこちで「載せていいのか?」と話題にもなったほど聴覚障害者に対するいじめの描写がすごい。

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 主人公の石田将也は、耳の聞こえない転校生・西宮硝子に後ろの席から大声で「わ!!」と声をかけたり、筆談用のノートを池に捨てる。授業中に上手く発音できない彼女のマネをしたり、自分たちで黒板に硝子の悪口を書いておいて「ひでーことするなぁ」「消してあげよーぜ」といい人ぶる。血が出るほど強く耳を引っ張ってケガをさせたり、面白半分で補聴器を奪っては壊したり、池に捨てたりもするのだ。いじめは硝子に対してだけではとどまらず、彼女のために手話を覚えようとするクラスメイトにまで及ぶ。とにかく、1巻ではひたすら無邪気で残酷な小学生のいじめが続くのだ。

 また、ひどいのは直接硝子をいじめている人だけではない。実の母親は、「大事なのは娘がいじめられないこと!!」と言いながら娘の意見は一切聞かないし、手話を覚えようともしない。担任の教師は、いじめる将也に注意はするけど、基本的には無関心で見て見ぬふり。注意するときも、「俺に恥をかかせるな」と自分のことしか考えていない。さらに「でもまあお前の気持ちはわかるよ」と将也に同調してみせるのだ。そのくせ、いじめが校長の耳に入り、警察沙汰になりかけると途端に将也を糾弾し、硝子をいじめていたほかの生徒と一緒になって彼だけを吊るし上げる。

 こうやってみても、読後感は決していいものではない。1巻を読んで、そのつらさから2巻目になかなか手が出せないという人もいるかもしれない。それでも「ぜひ読んで欲しい」と言われるのは、ただのかわいそうな話でも、いじめた側が改心して仲良くなるだけのいい話でもないから。

 どんなに反省して悔やんだって、いじめた過去が消えてなくなることはないし、「知らなかった」、「幼かった」が言い訳にならないこともある。だから、将也が硝子に会いに行くと彼女の妹は「自分を満足させるためだけに来てるなら帰って下さい」と言って追い返そうとする。硝子の母親は「あなたがどれだけあがこうと幸せだったはずの硝子の小学生時代は戻ってこないから」と言う。そして将也自身、硝子と話すようになっても「なに笑ってんだよ俺…!! お前は笑っちゃだめだろ!!」と戒め続けるのだ。

 人間は誰しもが汚い部分を持っていると知っていながら、多くの人が人は変われるし成長できると期待している。実際、すべてが許されるわけではないし、何年かかるかもわからないけど、将也と硝子のように思いを伝え合うことはできる。自分が悪いと思い込んで怒ることもできず、ただ笑っていた硝子も、硝子のためを思って周りを遠ざけてきた妹も、硝子の意見を聞こうともしない硝子の母親も、もちろん、硝子をいじめていた将也も、変わることができるはず。その姿を見たいから、続きが読みたいと思うのだ。

 『聲の形』は、人間の汚い部分と希望をどちらも赤裸々に描く作品だからこそ、これほどまでに多くの読者が惹きつけられるのだろう。

文=小里樹