『明日ママ』はやはりリアル? 施設出身マンガ家が描く児童養護施設の真実

社会

公開日:2014/2/24

 芦田愛菜演じる役の「ポスト」というあだ名や子どもたちをペット扱いする児童養護施設の施設長などが問題となったドラマ『明日、ママがいない』。しかし、児童養護施設も、木村文乃演じる叶が働く児童相談所も、その実態はいまいちわからないという人は多いはず。そこで、1歳から9歳までを児童養護施設で暮らした著者・りさりが描くノンフィクションマンガ『いつか見た青い空』(新書館)や『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』(夾竹桃ジン、水野光博:著、小宮純一:著・企画・原案/小学館)から、その実態を見てみよう。

 まず、『いつか見た青い空』では、「さり」が施設で過ごした少女時代のことが描かれている。さりのいた施設には教会があって、シスターもいて毎日お祈りするようなところだった。施設にいるのは女の子だけで、80人前後が入れる。規則正しい3度のご飯に、休日は10時と15時のおやつもあるので、当時のさりには「お腹がすいた」という感覚もないし、「遊びもアニメも中断させるご飯の時間は面倒だ」とさえ思っていたという。不公平にならないように、家族がいる人も親や身内からの贈り物は禁止されていたが、親と暮らせないのは施設で暮らす全員がそうなので「自分を可哀想がったりしない」。とくに、1歳から施設にいたさりは母親の顔もわからなかったし、物心ついたときからそこで暮らしているので、「自分を不幸だと思ったことも無い」し、「それどころか毎日楽しい」と思っていたそう。

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 そして、血の絆が見えにくい施設育ちだからか、この施設では「姉妹の絆」を大切にしていた。

 何をするのも一緒で大の仲良しだった杏と桜という姉妹。姉の杏は、母親に優しくされた記憶も一緒に桜をあやした記憶もあるので、桜に優しかった。でも、母親が面会に来たときだけはただの甘えん坊になって母親の愛情を一身に欲しがる。それは、母親への甘え方を知っているから。しかし、2歳で施設に入った妹の桜にはその記憶がない。だから、杏とは結べた家族の絆を母親とは上手く結べなかったようだ。

 一方、杏と桜とは正反対に妹をいじめていた千夏、桃花姉妹もいる。彼女たちは、どちらも物心つく前からの施設暮らしで、「家族への愛し方も愛され方も学習していない」。だから、千夏は「妹ばかり可愛がると他の子に不公平」だと思って、みんなの前では桃香をいじめていたのだ。

 また、児童養護施設に行く前の段階。『明日、ママがいない』で、木村文乃演じる叶がいる児童相談所にスポットをあてたマンガもある。それが『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』なのだが、主人公の健太も叶と同様、虐待された過去を持つ。健太は、自分を助けてくれた児童福祉士に憧れ、自分を引き取って育ててくれた里親に感謝して、自分と同じような状況になっている子どもたちをひとりでも多く救いたいと奮闘する。

 しかし、彼が命懸けで保護した子のなかには、「周囲にいる大人がどこまで自分を受け入れてくれるか」を試すため、「僕のおもちゃがない」とか、お風呂も「みんなと一緒に入りたくない」とわがままを言って困らせる“試し行動”をする子もいる。それに、どんなに虐待されても親を守ろうとするし、嫌なことは意識下に沈めて「親との楽しかった時間の記憶だけが大きくなる」ので、嫌いになったり恨んだりすることもないという。子どもに無関心な母親と追い詰められて息子に手をあげた父親のもとから保護された子どもも「僕、こんな所…来たくて来たんじゃないもん…こんな所に…住むんなら…お家でパパにぶたれたほうがましだよ!!」と言う。こんな子どもたちの行動や感情を完璧に理解することはできないかもしれないが、知ることはできる。

 実態と乖離しているとの声も大きかった『明日ママ』だが、『いつか見た青い空』『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』で、ドラマでは描ききれていない児童養護施設や児童相談所についてもより深く知れるかもしれない。

文=小里樹