鈴木みそ『ナナのリテラシー』が描く電子書籍の未来 出版の救世主になれるのか?

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公開日:2014/2/24

 何度も来ると言われた“電子書籍元年”。しかし、実際は期待ばかりが先行し、その中身は伴っていないのが現状。そんな電子書籍の未来について描かれた本が、1月25日に発売された。AmazonのKindleで個人出版し、空前の大ヒットを叩き出した鈴木みそが描く『ナナのリテラシー』(KADOKAWA エンターブレイン)だ。この本では、彼が自身の体験をもとに、自分を「鈴木みそ吉」というキャラクターで登場させながら、電子書籍を始めるまでのやり取りなどを描いている。そこから、電子書籍の未来やAmazonで電子書籍を自費出版するコツなどを紹介してみよう。

 物語は、天才コンサルタントの仁五郎の会社に高校生の許斐七海が職場体験にやって来たところから始まる。この仁五郎のもとにやってきた出版社に対して、彼はデータを基に電子書籍について語っていくのだ。本の未来形として期待されていた電子書籍だが、実際はなかなか売上が伸びない。2003年からなんとか右上がりになっていたが、2011年にガクッとダウン。しかも、電子書籍で読まれているもののほとんどが、ガラケーでのエロマンがだという。毎年7%から8%も売上が落ち続けている出版業界を、その全体のたった4%しかない電子書籍で埋めるのは不可能。だから、仁五郎は「結論から言えば電子書籍が出版社を救う可能性はほぼありません」ときっぱり言い切る。

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 でも、電子書籍が救うのは出版社ではないというなら、一体誰を救うのか。その答えが、鈴木みそ吉のようなよりマイナーで「カルトな作家」たちだという。かつて売れっ子だったり、人気があった中堅作家も、マンガ業界の構造的な問題で、今では出版社の庇護なしでは生きていけなくなっているという。しかし、その肝心な出版社に頼ることも難しくなってきた。そんな状況から抜け出すために、電子書籍はとても有効なツールになりえる。若い子は電子書籍どころか本を読む人も少ないが、中年以降で老眼になっていく人からすると、自由に拡大できる電子書籍は魅力的に映るという。特に、「30代40代で高収入」「本もよく読み新しいデバイスも好きなアーリーアダプター」「昔はゲームも最新型を争って買った」というような世代と読者層がかぶる作家にとっては、もってこいなのだ。

 たしかに、それまで出版社に任せきりだったことを自分ひとりでこなさなければならないので、苦労することもたくさんある。まずは、出版社から電子書籍の出版権を手に入れ、原稿は電子化してJPEGにそろえる。だいたい、原稿の25分の1のサイズにするので、余白を削ってJPEG荒れやモアレを調整するなど、細かい修正はいくつも出てくるよう。その後、EPUBという電子書籍の規格にして、「キンドルプレビューア」でmobi出力。それを、AmazonのWebサイトにアップロードといった手順を踏むのにも、慣れるまでは時間がかかりそう。その代わり、印税を7割にすることができるし、値段設定も自由。1巻だけ100円で売って、2巻以降は400円にするとか、もっと技術が進んで将来「高解像度版が出たなら無償で更新できるようにする」といったことも個人で決められる。

 電子書籍は、出版社や業界の未来ではなく、作家の未来なのかもしれない。

文=小里樹