2020年東京五輪招致を成功させたプロが指摘! 失敗するプレゼン「3つの法則」とは?

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更新日:2014/4/15

 プレゼンの前日に慌ててパワーポイントでファイルを作成し、説明する内容を詰め込んで資料も完成、「よし、これで明日なんとかなるだろう!」と思って臨んだプレゼンで大失敗……なんて悲惨な経験をしたことはないだろうか? 懇切丁寧な資料も作った、見やすいグラフも数字の根拠も揃えた、しっかり説明もしたはず。自分としては納得できる内容だったのに、なぜ失敗してしまったのだろう?

 「それは、プレゼンを失敗するミスを犯しているからです」と指摘するのは、ニック・バーリー氏。スピーチ原稿の執筆などを担当する戦略コンサルタントとして、2012年のロンドン、2016年リオ・デ・ジャネイロ、そして2020年東京と3大会連続でオリンピック・パラリンピック招致を成功させ、昨年の流行語大賞となった滝川クリステルの「お・も・て・な・し」を生み出した「五輪招致の請負人」として注目を集めるイギリス人スポーツ・コンサルタントだ。

 バーリー氏によると「プレゼンを失敗する3つの法則」は以下の通りだ。

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1. 自分のことばかりを話してしまう

「これは誰もが陥りやすいことなのですが、プレゼンの場では、スピーカーであるあなたが自分自身のことについて話してしまう、あるいは自分が何を求めているかについての話をしてしまいがちです。しかしプレゼンを聞く側であるオーディエンスは、あなた自身のことを知りたいわけではないのです。スピーカーから学びたい、あなたの言っていることを理解したい、納得したいと思っているのです。そしてオーディエンスが何を求めているのかをスピーカーがきちんと理解している、ということを感じたいのです」

ニック・バーリー
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会コンサルタント。ロンドンを拠点とする国際スポーツ・コンサルタント企業Seven46の創業パートナー/CEO。2012年ロンドン・オリンピック招致委員会に当初から参画し、決定的な役割を果たした最終プレゼンテーションの執筆を手がける。2016年五輪のリオ・デ・ジャネイロ、2020年の東京五輪の招致成功にも戦略的コミュニケーション・アドバイザーとして参画。また国際ラグビー連盟のオリンピック・キャンペーン(7人制ラグビーの採用)や2017年のロンドン世界陸上招致でも勝利を呼びこむプレゼンテーションを執筆している。

2. 退屈させない工夫がない

「人間の関心や興味というのは、5分を過ぎると急激に下がります。それはどんな場合でも、上手なスピーカーであってもそうなのです。ですので、そのまま話を続けていては関心を保つことは難しくなります。きちんと話を聞いてもらうためには、オーディエンスを退屈をさせないこと。それには話す人を替える、ビデオやビジュアルを使うなど、継続的に関心を引きつける工夫が大事なのです」

3. リハーサルをしていない

「上手くいくかどうかというのは、実際に話したり動いたりしてリハーサルをしてみないとわかりません。スピーチやプレゼンの内容を確認したり、改善できるのはリハーサルを通してしかできないのです。練習することを絶対に軽く見てはいけませんし、『まあいいや、当日なんとかなるだろう』は絶対になんとかなりません! スピーチ原稿の執筆や資料作成などは誰でもすると思いますが、その準備をするのと同じくらいの努力を、ぜひともリハーサルにつぎ込んで欲しいのです」

 

 バーリー氏の新刊『日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力』には、東京が2020年の五輪招致を勝ち得た理由が詳しく分析されているが、今回の取材では「プレゼンを失敗する3つの法則」と併せ、あえて「ライバル都市だったマドリードとイスタンブールはなぜ失敗したのか」についても解説してもらった。

「マドリードはどうしたらスペイン経済を立て直せるか、どうしたら若者の雇用拡大につながるのかという自国のことばかりを主張していたことが原因です。皆さんが私たちに何をしてくれるかということばかりだったのですが、それはオーディエンスであるIOC委員には関係ないことです。これに対して東京は『実行力』『スポーツと五輪を祝福する』『アジアの市場を獲得できる』など多面的で充実したコンテンツを用意し、東京に投票するメリットを明確に伝えました」

「そしてイスタンブールは国際的なプレゼンテーションの場であるにも関わらず、スポーツ大臣が長々とトルコ語でスピーチをして、オーディエンスを退屈させていました。これではトルコの政治家は国内志向だと思われてしまいます。」

世界を動かすプレゼン力

 
成功した理由だけでなく、失敗事例から学ぶことも重要と本書では指摘している

「一方で東京の招致チームは必ず英語、もしくはフランス語を使うようにしていたので、対照的であったと思います。唯一日本語を使ったのが『おもてなし』という言葉だけだったのですが、それは英語やフランス語に訳せない、日本独自の言葉であったからです」

 また、前回の2016年招致レースで東京が敗れた理由については「なぜIOCが東京に投票しなければいけないのか、その明確な理由が欠けていました。さらにその理由も招致活動中に2、3回変わり、委員を非常に混乱させてしまった」というバーリー氏。「そしてあまりにも情熱を声高に叫び過ぎた、ということがありました。大きな声で叫ぶことは、やり過ぎな感じを与えます。情熱を示すためには声を大きく、トーンも上げると思いがちなんですが、逆に声を低くして話し方の速度も抑えて、ゆっくり話す方が伝わるのです。そういった意味では、2020年の東京招致チームは上手くバランスをとっていたと思います」

 同書には、2020年の最終プレゼンで東京招致チームがスピーチした原稿全文(日本語訳と原文)とそこに込められた狙いと効果の分析、具体的な「ニック式、プレゼンを成功に導く7つの戦略」、五輪招致請負人としてその舞台裏を明かすプロフェッショナルな仕事術、さらに日本人が最も苦手とするコミュニケーションに即効性のあるアドバイスが詰まった一冊だ(冒頭の「パワーポイントでの失敗」についても説明されている)。

「これはプレゼンの本であると同時に、コミュニケーションの本なんです。コミュニケーションというのは自分自身、そして自分のビジネスを売り込むことでもあるんですが、大体の場合においては“お互いの理解を促進すること”だと私は思っています。そして現代においてコミュニケーションというのは、人生や毎日の生活にとって非常に重要なことになってきています。しかし誰も生まれながらにして『優れたコミュニケーター』である人はいないのです。世の中には努力をする人と努力をしない人、その2つのタイプしかいません。つまり、誰もが努力することによって優れたコミュニケーターになれる。プレゼン力は、練習することによって向上できるスキルなのです」

 

プレゼン風景
オーディエンスを魅了するプレゼンは練習によってしか身に付かない

 

 そしてバーリー氏は「もともと私もプレゼンが苦手だったんですよ」と笑い、「実は先日もプレゼンで失敗してしまったんです」と告白してくれた。「そのプレゼンでは、他人に書いてもらったスピーチ原稿のチェックを怠っただけでなく、時間がなくてリハーサルをしていなかったんです。そして当日会場へ行ってみたらパソコンが壊れていて、その修理で時間を無駄にしてしまった。自分で決めたルールを破ってしまったため、結果はダメでした。私は“自分の本を読み直すべきだ”と思いましたよ(笑)」 世界を動かしたプレゼン力のあるバーリー氏とて、準備を怠るとたちまち失敗してしまうのだ!

 「でも俺、世界なんて動かさないし……」と言うなかれ。本書には「コミュニケーション術を改善することで、恩恵を受けない人はほとんどいないと思います。なぜなら、世界で起きていることの大半は、うまくいったコミュニケーションの結果だからです。効果的なコミュニケーション術を学ぶことは、世界がどのように動いているかを理解し、自分のメッセージをいかに相手に伝え、自分の立ち位置を改善させていくかを理解するうえで、必ず役に立つはずです」とある。「ニック式プレゼン力」は、どんな場面でも力を発揮できる、優れたコミュニケーターを養成する必読本だ。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

 

日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力

『日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力』

ニック・バーリー / NHK出版

プレゼン下手と言われる日本人が世界を驚かせた、東京オリンピック招致の最終プレゼン。そこには“影の立役者”と言われた一人のイギリス人の存在があった。メッセージを磨き、相手を魅了し、重要な決断を引き出すために彼が考えぬいた7つのポイントとは? 歴史を動かしたプレゼンテーション術の真髄を学べ!

先日来日したニック氏が行ったセミナーの模様もチェック!


 

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