マンガ家有志が“震災とあれから”を描いた「ストーリー311」って?

社会

公開日:2014/3/1

 東日本大震災が発生した2011年3月11日から3年が経とうとしている。

 今なおくすぶり続ける福島の原発。仮設住宅での暮らしを余儀なくされている避難者の人々。全国ニュースではあまり取り上げられなくなりつつある大震災の爪あとだが、果たして復興はどれだけ進んでいるのか?

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 昨年の11月、筆者はとある仕事で、福島の被災地を回った。街のあちこちに放射線量測定器(モニタリングポスト)が設置されていた。ひとけのない居住制限区域・避難指示解除準備区域では、白い防護服を着た作業員たちが除染を行っていた。観光バスやマイクロバスで行き来する人々もまた、除染作業員だった。除染後の砂や土などが背よりも高い大きな黒い袋に詰められ、畑や線路上に無数に並んでいた。震災発生から2年を過ぎてようやく立ち入り規制が緩和された富岡町では、タイムマシンで過去に飛んだかのように、震災直後の津波で破壊された街が、当時のまま残っていた。

 東京で生活、仕事をしている自分には、知りようのない被災状況が、そこにはあった。余震に慣れ、地震速報に慣れてしまった自分に苛立ちを感じた。危機感が薄すぎる。まだ「311」は終わっていない。

 だが、あの日にも多くの人が感じ、被災地を目の当たりにした昨年、自分があらためて感じたこと─被災者ではない自分に何ができるのだろうか? マンガ家ひうらさとる氏は震災後、同様に感じながら、「一番大切なことは、被災者ではない私たちが普段通りの“日常生活”を送ること」だと、マンガを描き続けていた。そんなある日、ボランティアに行っていた友人から、被災地で出会った人たちのことを聞き、相談された。

「ひうらさんとお友達のマンガ家さんで、“マンガ”にしてもらうことはできませんか?」

 被災者ではない自分が何かしたいと思うことはおこがましいのではないかと「悩みながら 迷いながら この日常から 勇気を出して ペンを取りたいと思います」──ひうら氏は、仲間のマンガ家たちと被災地を取材し、「311」に起こったことを、被災地に生きる人々の話を元にマンガにした。それが『ストーリー311 漫画で描き残す東日本大震災』(ひうらさとる、ほか/講談社)だ。ひうら氏を発起人に、上田倫子氏、うめ氏、おかざき真里氏、岡本慶子氏、さちみりほ氏、新條まゆ氏、末次由紀氏、ななじ眺氏、東村アキコ氏、樋口橘氏というそうそうたるメンバーが参加し、ネットでの連載を経て、2013年3月、本書は講談社より刊行された。

 取材を元に描かれた各エピソードでは、あの日、人々を元気づけようと立ち上がり避難所で温かいご飯を作った調理師専門学校の生徒たち、同じように被災していながら互いの事情を察して食料を分け合う人々の優しさ、家族や友人を失いながらも前を向いて生きる現地の人々、被災地からの転出を巡って不和が生まれてしまった家族、復興のためにロックフェスを開催した人─様々な立場と思いを抱いた人々のリアルを読むことができる。

 そしてまた、マンガを描いた各先生たちの迷いや思いも伝わってくる。被災者と非被災者、それぞれの感じ方の違いもまた、あの大震災の真実の一面であると、思う。

 このコミックの続巻『ストーリー311 あれから3年 漫画で描き残す東日本大震災』(ひうらさとる、ほか/KADOKAWA 角川書店)が、2014年3月11日に角川書店より刊行される。刊行資金をクラウドファンディングで集めたり、新たなマンガ家の参加があったりと、復興への思いが詰まった1冊に違いない。

 この本の印税・著作権の全額は復興のために寄付される。もしも、復興のために自分ができることがあるのだろうか、おこがましいのではないかと思うのなら、本書はきっかけのひとつになる。そして、東日本大震災のことを、「311」をもう一度思い出して欲しい。復興への道のりがまだ続いているように、そこに生きる人のストーリーも続いていることを、感じて欲しい。震災から、まだ3年しか過ぎていない春に。

文=水陶マコト