あの名探偵の推理力を盗め! シャーロック・ホームズに学ぶ思考術

ビジネス

2014/3/3

 シャーロック・ホームズ物語が何度目かのブームを再燃させている。ちょっと武闘派寄りのホームズが活躍するロバート・ダウニー・Jr主演の映画『シャーロック・ホームズ』、舞台を大胆にヴィクトリア朝から現代へと置き換え、スマートフォン片手に捜査するホームズをベネディクト・カンバーバッチが演じるドラマ『SHERLOCK』といった映像作品の影響が何よりも大きいだろう。奇抜な設定と個性派俳優による絶妙な演技が新たなホームズファンを獲得しているのは間違いないが、それでも最大の魅力はやはりホームズの鮮やかな推理である。優れた観察力とそれに基づく分析は流麗で芸術そのもの。ミステリファンならずとも彼のような頭脳を持ちたい思う人は大勢いるはずだ。

 『シャーロック・ホームズの思考術』(マリア・コニコヴァ著、日暮雅通:訳)は、そんなホームズばりの頭の回転を身につけたいと願う方にむけて、シャーロッキアンでもある心理学者が著した一冊。最先端の神経科学と心理学を踏まえながら、ホームズの思考法を読み解き、頭のより良い働かせ方を教えてくれる。

 著者は反応が速く、直観で反射的な、意識的な思考や努力をしない思考を <ワトスン・システム>、反応が緩く、より慎重で、より徹底して論理にかなった動きをするシステムを <ホームズ・システム> と名付けている。そこで今回はいくつかのポイントを例に、ビジネスや日常生活に活かせる <ホームズ・システム> をちょこっと学んでいこう。

【1】脳と言う“屋根裏部屋”を整理整頓する
 第1作『緋色の研究』でホームズはこんな言葉をいう。
「人間の頭脳というものは、もともと小さな空っぽの屋根裏部屋みたいなもので、自分の好きな道具だけをしまっておくようにできているんだ」
「ところが、愚かな人間は、手当りしだい、どんながらくたでも片っ端から詰めて、いざとり出そうとする場合、それがどこにあるか、わからなくなってしまうんだ」
 ホームズの指摘する記憶に関する事柄は、記憶の<固定化>や<検索>、<再固定化>の概念を指す。蓄えておくべき価値があると判断された場合、その情報は大脳皮質の特定の部分へと移動し、収納される<固定化>。 <固定化>された記憶は時に思い起こされ<検索>、新たな情報が追加されるなど、常に書き換えられることもある<再固定化>。ただし、この更新は脳の持ち主が無意識の内に行っている場合もあり、それこそ“屋根裏部屋”を掃除するように脳の中の記憶を意識的に整理し、いらない情報とそうでないものの取捨選択をして更新情報をチェックしなければならない。
 試験でもなんでも、とにかく知識を詰めこめばいいという「詰め込み式」に走る人もいるだろうが、必要な記憶と不要な記憶のメンテナンスも大事、ということ。

【2】<注意力> を鍛える
 「あなたはアフガニスタンにおられましたね」
 ホームズがワトスンと初対面の時に、彼がアフガニスタン帰りの医師であることを見破った。観察を土台にして情報を統合し、ひとつの結論を下すには選択力、客観性、包括性、積極的関与の4つの要素による <注意力> が必要だという。特にここで大事なのは積極的関与だろう。積極的関与とは対象に向かって集中し、とにかく観察に徹することである。
 一見、この受動的な態度は“積極的”という言葉と相反するようにも思えるが、余計なタスクに気を一切使わずひとりの人間に焦点を合わせる状態は、十分に積極的態度なのである。たとえば仕事の大事な取引で初めて接する人がいる場合、相手を理解したければ、とにかく一心に観察すること。それは受け身の姿勢ではなく、他者と分かり合うためのポジティブな姿勢なのだ。

 本書ではこの他にも <マインドレスネス> <マインドセット>といった、普段聞き慣れない専門用語を、ホームズ物語の一場面を引き合いに出しながら平易に解説し、日常に応用できそうなホームズの思考を紹介している。ホームズの推理術をテーマにした本のなかには印象的なセリフの抜き書きだけのようなものもあるが、本書は本格的な学術の面をかみ砕きながら、説得力あるものとしてホームズ物語と上手く絡めている点がグッド。ぜひ本書片手にドイルの書いた小説をチェックし、ホームズ流脳の活用術を学んでもらいたい。

文=若林踏