元AV女優・鈴木杏里が選ぶ、「エロティックだけど実は深い本」ベスト5

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公開日:2014/3/6

エロ——誰もがなぜか心惹かれてしまうこの二文字は、文学作品のなかでもさまざまな形で現れてきます。今回は読書家で知られる元AV女優・鈴木杏里さんが、エロティックだけど実は深い本を5冊チョイス。文学を読み、エロについて考えてみませんか?

鈴木杏里・1985年生まれ、東京都出身。元AV女優。日々の楽しみは、読書、映画鑑賞、検索、美術館巡り、旅行、海外通販、DIY、インテリア、時々ゲテモノ。現在は執筆業などで活躍し、著作に『ハーフ・サイコ』『幻影チェリー』『キャットシティへようこそ』(ともにヒトコト)などがある。

1位
売春婦の半生から考える、セックスと人間、そして性産業
11分間 (角川文庫)
11分間 (角川文庫)
  • 著者名:パウロ・コエーリョ
  • 発売元 : 角川書店
  • 価格:720円

売春婦のブラジル人女性の半生を描いた小説で、セックスとは何か、人間とは何かを考えさせられる一冊。タイトルの「11分間」はセックスをしている時間を指しています。その11分間のために、人間はいろいろとがんばるわけですよね。実際に売春婦の方々にインタビューをして書いたものらしく、女性は特に共感できる部分も多いはず。「ほとんどの女性は挿入ではイケない」とか、男性も胸に刺さるかもしれません。また、主人公や周囲の女性たちがなぜ売春婦になったかを突き詰めると、言い訳はたくさんありつつも、実は明確な理由はない。それは、例えば私の前職でもあるAVにも共通するところがあるんですね。その意味で、性風俗産業とは何かを考えさせられる本でもあります。

2位
セックス依存症の男性が漏らす意外な名文句
チョーク! (Hayakawa novels)
チョーク! (Hayakawa novels)
  • 著者名:チャック・パラニューク
  • 発売元 : 早川書房
  • 価格:2,484円

映画化にもなった『ファイト・クラブ』のチャック・パラニュークによる、セックス依存症の男性が主人公の小説です。彼は、年老いて呆けかけた母親を高額なケアホームに入れるために必死で働いています。セックス依存症になった理由はハッキリとは書かれていないものの、労働などでストレスがたまっている人は変態的になりやすいんだなと実感しましたね。エロティックな描写は他の4冊より少なめで、重たくも暗くもなく、意外なオチもある作品なので、娯楽作品が好きな人もなじみやすいと思います。また、「シングルマザーに育てられた息子は、生まれながらに結婚しているも同然だ」などの名文句もたくさん。軽い話に見えて、刺さる言葉がちりばめられている一冊です。

3位
異常なる自慰衝動の裏に隠されたユダヤ人のコンプレックス
ポートノイの不満 (集英社文庫)
ポートノイの不満 (集英社文庫)
  • 著者名:フィリップ・ロス
  • 発売元 : 集英社
  • 価格:367円

乱暴にいってしまえば、エロティックな『ライ麦畑で捕まえて』でしょうか。主人公のユダヤ系アメリカ人男性ポートノイは、コントロールしきれない異常な性欲を持っていて、それが自慰に向かうのですが、「レバーを巻きつけてみる」とか結構バカバカしい自慰の描写が出てくるんです。実際に、カップラーメンを使う人がいたりもしますが、私はそういう男性の一面をほほえましいなと感じるんですよね。こうした側面を含めて、本作はいわゆる“明るいエロ”。ただ、彼の病的なまでの性欲の裏には、ユダヤ人としてのコンプレックスが表現されています。本作に限らず、ユダヤ人系作家の描く作品は「自分の居場所がない」と感じて生きている人は、共感できる部分があると思います。

4位
ニオイフェチの感覚から知る、性に限定されない広義の官能
香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)
香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)
  • 著者名:パトリック・ジュ-スキント
  • 発売元 : 文藝春秋
  • 価格:792円

『パフューム ある人殺しの物語』の名で映画化もされた、有名な作品です。天才的な調香師が、その超人的な嗅覚ゆえに極度のニオイフェチになってしまい、最終的には女性から香りを取ろうとして人殺しをしてしまいます。この作品は、直接的な性的描写はないけれど、全体にエロティックな雰囲気が漂っていて官能的ですね。フェチというほどではないですが、香りものが好きなので共感できる部分もありました。主人公がニオイに強い高ぶりを示すのがそうであるように、興奮とは性的なもの、人間に対して抱くものに限りませんよね。主人公の感覚を通して、広い意味での人間の官能的な感覚に触れられる作品だと感じます。

5位
古代インドの性愛指南書に学ぶ恋愛・セックスのハウツー
バートン版 カーマ・スートラ (角川文庫―角川文庫ソフィア)
バートン版 カーマ・スートラ (角川文庫―角川文庫ソフィア)
  • 著者名:ヴァーツヤーヤナ
  • 発売元 : 角川書店
  • 価格:679円

言わずと知れた、古代インドの性愛指南書。実は私も冷やかし半分で読んだのですが、意外と面白いんですよ。文化史的な一面としては、古代インドの人々が行っていた体位にはどんなものがあるか、何が媚薬になるか、妻としての心得が書かれた項目も興味深いですね。確かに、宗教的な問題もあり、女性蔑視な一面もありますが、現代にも通ずる部分はあるなと感じます。今、世に出ている恋愛ハウツー本、セックスハウツー本のように違和感なく読めますし、案外、役立つ一冊だと思います。

「これらの5冊は、どれもエロティックな描写がある読みやすい作品ですが、実は裏側に深く感じさせるものをはらんでいます。性の生とは切っても切り離せないと感じさせられますし、エロには、ある人間の生きた時代や、その生き様がありありと写し出されるものなのかもしれません」
鈴木杏里さんありがとうございました!エロという物は嫌悪感を持たれがちですが、人間が生きていく上で大切な物です。向き合う事で新しい世界が見えてくるのではないでしょうか。