炭水化物とコカインは脳の同じ部位を刺激! 「依存症」の恐ろしさを知る

健康

公開日:2014/3/6

 名優フィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなった。作家トルーマン・カポーティが憑依したかのような鬼気迫る演技を見せた映画『カポーティ』でアカデミー賞やゴールデングローブ賞の主演男優賞を獲得するなど、演技派としてこれからの活躍が期待されていたが、46歳という若さ、しかも注射器を腕に刺したままというドラッグのオーバードーズと推定される死は世界に衝撃を与えた。ホフマンは若い頃に薬物中毒になり、その後は薬物を断った経験があったそうたが、再び「キング・オブ・ドラッグ」と呼ばれるヘロインなどに手を出してしまっていたようだ。

 こうした薬物やアルコールなど「依存症」に関する話を耳にすると、「どうしてやめられないのか?」「意志が弱いんじゃないか?」と感じる人がいるかと思うが、人はなぜ依存症になってしまうのだろうか? その原因や治療法などを解説する『溺れる脳:人はなぜ依存症になるのか』(M・クーハー:著、舩田正彦:訳/東京化学同人)によると、薬物などには「脳を変えてしまう作用」があるという。それは脳疾患、つまり脳の病気になってしまうということであり、本書には「薬物乱用と依存は、神秘的または、精神的なものよりも、むしろ生理的な原因がある」と記されている。依存症は、我慢とか意思の強さなんてレベルの話ではないのだ。

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 薬物は、快い気分にさせるように配線されている脳に作用し、神経伝達物質をドバドバ出させて気持ちよくさせてしまう。そして脳にはこの薬物の働きを制御したり、消去したりする方法が存在しない。薬物の前に、脳は完全に無抵抗状態なのだ! 薬物は「自然なプロセスで脳に入り込み、荒廃を作り出す」もの、つまり「トロイの木馬」であり、一度入ってしまったら最後、脳の生化学的構造に影響し、しかもそれが長期間にわたって続いて、薬物などをやめても持続する。そして薬物がなくなると、変化した脳は不安定になり、禁断症状が起こる。そしてまた…の繰り返しになってしまうのだ。本書にはその治療法も載っているが、その魔手から逃れるためには長く苦しい時間と周囲の理解、そして適切な治療が必要になる。

 依存症を引き起こすのはマリファナや覚せい剤、ヘロインなどの薬物だけではない。法律で許可されているアルコール、ニコチン、鎮静剤、カフェインなども依存症になる。「カフェインも?」と思った人がいるかもしれないが、これも立派な依存症を引き起こすのだ。常識的な量では安全といわれるカフェインだが、最近はエナジードリンクなどで含有量が増える傾向にあるので(もちろんカフェインにも耐性があり、摂り続けると以前と同じ量では効かなくなる)今後の注意を必要とする、と本書には記されている。また最近では炭水化物を抜くダイエットや健康法が流行っているが、炭水化物はコカインが作用する脳の部位と同じ場所に刺激を与えるそうで、渇望を引き起こしてしまうそうだ。そして「過食」もある一定の条件については薬物依存との類似点もあるとのことなので、何事も「過ぎたるはなお及ばざるが如し」を肝に銘じていたいものだ。

 ホフマンが演じたカポーティは、傑作ノンフィクション・ノベル『冷血』を書いて以降、まったく長編作品が書けなくなってしまい、晩年はアルコールと薬物中毒に苦しんだ。映画『カポーティ』には「他人に誤解されながら生きていくのは辛い」というセリフがあるが、何が彼らを追い詰め、なぜ依存症の深みにはまったのかはわからない。薬物に手を染める原因はいろいろだ。また遺伝要因や、じっとしていられないタイプ、感情的に怒りやすい人、初めて使用した年齢が低いほど依存症になりやすいという傾向はあるそうだが、それはあくまで傾向であり、どんな人でも依存症になってしまう危険性がある。「ダメ。ゼッタイ。」「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」というコピーがあったが、まさにその通り。本書を読んで、たった一度の使用だけでも脳の中がとんでもない状態になるということ、予防の大切さ、そして依存症への偏見を取り除く努力をして、正しい知識を身につけて欲しい。

文=成田全(ナリタタモツ)