「電子書籍はそもそも所有できない」 相次ぐ電子書店の閉店―専門家はこう見る

IT

更新日:2014/5/29

今回話を伺った福井健策弁護士(骨董通り法律事務所)

今回話を伺った福井健策弁護士(骨董通り法律事務所)

 エルパカBOOKSや、ソニーのReader Storeの北米からの撤退(日本国内は継続)など、電子書店の閉店が続きました。紙の本と異なり、電子書籍の中には閉店後読めなくなるケースも。どういった点に気を付ければよいのか、弁護士の福井健策さん(骨董通り法律事務所)に伺いました。

――最近、電子書店の「閉店」が相次いでいます。電子書籍ブームが落ち着く中、これからもこういった動きは続きそうですが、利用者としてはどういった点に気を付けておくべきでしょうか?

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福井:電子書店の閉鎖が論争を呼んだ際、電子書籍には「所有権」がないということに注目が集まりました。確かに電子書籍に限らず、誰かが占有したり、排他的に支配したりすることに馴染まないデジタルデータには法律上、所有権という考え方が適用されないのです。「知的所有権」という言葉はありますが、似て非なる概念です。電子書籍というデータを、一定の条件のもと利用できる権利を私たちは購入していると理解した方がよいでしょう。これは電子書籍に限らず、音楽や映像なども同じですね。

ただ、所有権がないから問題だ、という捉え方では本質を見誤ります。インターネットを介したデジタルデータの「特質」にこそ注目しておく必要があります。

――「特質」とは?

福井:デジタルデータは、あたかも所有権があるように無期限に利用したり他者に「転売」できるように設定することも、また逆に簡単に消去されたり、利用できなくされるよう設定することも可能なのです。所有権がある「紙の本」が簡単に奪われたり消されたりしにくいのはその通りですが、所有権のない電子書籍だから必然的に消滅してしまう、ということではありません。あくまで電子書店と利用者の契約しだいです。言い方を変えれば、利用者は今回、そういう条件で電子書籍を買ったのだということです。

――とはいえ、例えば価格が同じこともあるのに、ある日を境に読めなくなってしまう、というのは納得のいかない利用者も多そうです。

福井:そうですね。この問題の本質は「電子書籍は所有ができない」という点にあるというより、幾らそういうサービスだとか、利用規約に記載があった、と説明されても、あるいは幾らポイント還元されても、「利用者はそのサービス内容では納得がいかない」ということなのだと思います。もともと持ってしまっていた期待と異なっていたということですね。

そもそも、特定サービスでしか使えないポイント還元は本来の意味での「返金」ではありません。また、蔵書の他業者による引き継ぎは無いよりもずっと良いですが、利用者、そして出版社のような権利者にとって、「どこに引き継がれるのか」ということはとても気になるポイントです。望まないサービスに引き継がれてしまうような場合、それは言い換えれば「流出」ともなってしまうわけですから。

――直近ではHuluが日本テレビに事業譲渡することも話題になったことも思い起こされます。閉店(サービス終了)の憂き目に遭わないために出来るだけ規模の大きい電子書店を選択した方が良いということにはなりませんか?

福井:一面はそうでしょう。ただ他方、そうやって寡占・独占企業ばかりになってしまった場合、競争がなくなってしまいますよね。たとえ今「ユーザーの利益を最優先する」と宣言されていても、将来独占的な状況が生まれたときに、そうであり続けるという保証はありません。

公正な競争によって技術も進歩するわけですし、そこから生まれるバランスが、構造的な安全保障として必要だと思いますね。一方で競争は淘汰を生みますから、今回の電子書店の閉店のように、市場からの撤退ということも当然起こりえます。

競争によるメリットを享受するためには、消費者の側も一定のリスクを引き受けざるを得ません。ただ、事業者のそういったリスクについての説明が不十分であったり、サービスの継続が難しいという見通しがあるにも関わらず、相反する説明を行われたりすることもままあります。

無論、不正確な説明や勧誘を規制する法律もありますが、やはりまず大事なのは利用者がリテラシーを持って、そういったリスクがあることを理解した上でサービスを利用するべきですね。

――具体的にはどうすればよいでしょうか?

福井:とても当たり前の答えになってしまうのですが、利用規約や事業者からのお知らせをよく読んで理解した上で、サービスを利用する、ということですね。「規約は読まれるためにそこにある」のです。もっともユーザー全員に規約を読んで理解するよう求めるのも酷な点があるため、弁護士などの専門家もそうですし、まつもとさんのようなメディアの人間も、各事業者のサービス内容をウォッチして、何かヘンだぞと感じたら警鐘を鳴らすことも大事です。

――わかりました。しっかりと取り組んでいきたいと思います。

取材・文=まつもとあつし

 

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