小保方さんは例外? 高学歴・研究系女子たちの貧困という現実

社会

更新日:2016/1/29

 「共働き大国」ともいわれるアメリカ。しかし、高学歴の女性が会社を辞めて専業主婦を目指す傾向を指摘し、その実態に迫った『ハウスワイフ2.0』(エミリー・マッチャー/文芸春秋)が話題になっている。多大な残業時間を強いられ、常にリストラの可能性に怯え、給料が上がらないという現状に見切りをつけ、自ら進んで専業主婦となってSNSを駆使して暮らしを楽しむ、新しいタイプの女性たちだという。

 では日本の高学歴女子はどうなっているのか。研究者を中心とした高学歴女子がワーキングプアになっている現状をつまびらかにした『高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか?』(大理奈穂子、栗田隆子、大野左紀子:著、水月昭道:監修/光文社)を見てみよう。

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 著者のひとり・大理さんは、大学非常勤講師という不安定な立場の一方、大学院にも籍を置いている。もちろん、籍を置いていれば授業料もかかっているのだが、なぜそんなことをしているのかといえば、卒業すれば奨学金の返済義務が発生するから。しかも、大理さんは、人文学系の学問分野では決して珍しいケースではないそうだ。

 実際に生計を立てられる手段を選べばいいのに、と思う人も多いだろうが、研究を生かせるのは大学教員という地位だけ。そこへの通行手形となる「博士」の学位を獲るのは、どの研究分野にもまして難しいという。

 では、大学教員を諦めればすんなり就職できるのか、といえばそうではない。大阪大学大学院中退という栗田さんは、「奇妙にねじれた学歴によるハンディ」を背負ったひとり。就職氷河期時代に就職活動を始めた彼女は、実家近くの船舶会社の事務職に応募したところ、落選者に対するものとは思えないほどのきれいな便箋で「是非ほかをお探しください」という返事がもどってきた。栗田さん自身は「フルタイムで働ければ“なんでもいい”」と応募したが、「自分の学歴が“場違い”なのだ」とまざまざと実感したという。

 結局、派遣会社から紹介された研究所に勤めることになったが、非正規雇用のために3年で派遣会社から解雇。研究所が栗田さんを直接再雇用したが、非常勤公務員という形だったために、「日々雇用、一年契約」で給料は日給という扱いだったという。

 アカデミックの世界では、ただでさえ女性の非常勤講師の割合が高いうえに、結婚や育児・介護で「学位の取得や業績の蓄積が“遅れた”場合」、より一層女性に不利な状況になるという。本書ではほかにも、ブラック・ボックスと呼ばれる「極めて不透明な人事採用システム」や、「オールドボーイ・ネットワーク」(男性研究者同士によるホモソーシャル的なつながり)など、アカデミック特有の“女性排除”についても鋭く指摘している。つまり、個人の能力というよりは、社会や、アカデミックという非常に閉鎖的な世界における構造上の問題が、高学歴女子の貧困を生みだす一因となっているのだ。

 『ハウスワイフ2.0』(エミリー マッチャー:著、森嶋マリ:訳/文藝春秋)では、自ら選択して専業主婦となった高学歴女子の実態が描かれているが、日本の現状を見ると、今後は専業主婦を「選ばざるを得ない」女性が増えてくるのでは、といった危機感を覚える。優秀な人材が正当な地位と暮らしを得られるような環境を整備し、その知識や研究が社会に還元される仕組みを作ることが早急に望まれることではないだろうか。