【第13回】KADOKAWAのウェブコミックサービス「ComicWalker」がついに発進
更新日:2014/3/28
3月22日にいよいよスタートとなったComicWalker(コミックウォーカー)。昨年も、Dモーニング、ジャンプLIVE、マンガボックスなどを取材してきましたが、KADOKAWAもウェブコミックサービスに参入するということで、統括部長の古林英明さん(ガンダムファンには、ガンダムエース初代編集長であり、『ガルシア少将』として親しまれている方です)に、その詳細や狙いなど根掘り葉掘りお話を伺いました。
「無料」で読めるウェブコミックサービスで、どうやって「儲ける」のか、その秘密も明かされます。
『ガンダム』『エヴァンゲリオン』など、オリジナル50作品を含む全200タイトルが無料
――ComicWalkerの概要を教えてください。
古林:ざっくりとご紹介すると、200タイトルのマンガが無料で読める新ウェブコミックサービスです。昨年9社と統合したKADOKAWAですが、角川書店やアスキー・メディアワークスなどの各ブランドカンパニー(BC)が擁するマンガ誌から150作品、残りの50作品は新たに設けたComicWalker編集部で開発するオリジナル作品となります。
――今月頭の発表会では、タイトル数の多さもさることながら、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』や『新世紀エヴァンゲリオン』のフルカラー化など、人気作がラインナップされていることも注目を集めました。
株式会社KADOKAWA エンターテインメント・コンテンツクリエイション事業統括本部 新規事業開発本部 コミックウォーカー 統括部長。「ガンダムエース」「特撮エース」などの編集長を経て現職。
古林:そうですね。さらに目玉として、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』で描かれた1年戦争の後日談を、安彦良和さんに描き下ろしていただき、掲載します。
――それはファンとしては見逃せませんね。更新はどのように行われていくのでしょうか?
古林:KADOKAWAの月刊誌からの転載となる150作品は、その最新号に掲載されたタイミングから約2週間後をめどに最新話がComicWalkerに掲載されることになります。
これが可能になったのも、KADOKAWAが共通フォーマットとしてEPUB3.0の採用を進めてきたこと、そして昨年の統合で各BCのデジタル部門と密に連携が取れるようになったからです。いまほとんどの作品はデジタル入稿ですが、そういったデータがほとんどタイムラグなくComicWalkerにも提供され、翻訳にも回すことができるようになりました。
ただ26日発売の雑誌が多いので、一気に更新すると読み切れないことにもなってしまいますから、初出からきっちり2週間後という訳ではありません。多少前後、分散した編成になります。
連載される作品の1話~3話はComicWalkerでいつでも自由に読んでいただける形を取り、最新話は更新のタイミングで入れ替わっていきます。これは『新世紀エヴァンゲリオン』のような連載が終了している作品も同じ考え方ですが、作品によっては更新時のボリューム感や、読めるエピソード数を変化させることも想定しています。
――なるほど。残りのオリジナル50作品については、どのような体制で制作され、更新されていくのでしょうか?
古林: 基本的に各BCのマンガ誌編集部から1名ずつ、ComicWalker専任として精鋭を異動して来てもらっています。彼らがデジタルならではの作品づくりに日々取り組むという形ですね。ComicWalkerはスマホ・タブレット・PCと幅広いプラットフォームに対応するサービスですが、やはりスマホでの表示を考えた際には、「見開き」という表現は適していません。また吹き出しの文字が小さいと読みづらいので、大きくするといった具合に、新しい方法論で作品を開発しているところです。
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『いつも隣に宇宙人。』
(C)田丸鴇彦/KADOKAWA -
『リー漫』
(C) 澤田昨日&いとけん/VAP/KADOKAWA
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『水色イデア』
(C)高梨りんご/KADOKAWA -
『魔法少女大戦』
(C)2.5次元てれび
4コマ作品は毎日更新されるものもありますし、KADOKAWAとしては週刊マンガ誌をもっていないのですが、あたかも週刊誌のように連載するもの、隔週のものなど、様々なバリエーションをご用意します。結果として、毎日アプリを起動してもらえれば、何かが新しくなっているという状態を目指しています。サービス開始時には間に合わない可能性もあるのですが、アプリのアイコンのバッジ(右上の数字)で更新をお知らせする形になります。
自分好みのラインナップになっていく「マイマガジン機能」
――作品数が多いというのは嬉しいことですが、たしかに更新に気がつかないまま、掲載時期を逃してしまうという心配はありますね。
古林:そうですね。紙の雑誌で言えば5000ページ以上の膨大なボリュームになりますから(笑)。作品数が多いので、毎回読みたい作品を探すのは大変ですし、自分が前に読んだ作品の続きがどこにあるのか分からないということも起こりえます。
そこで「マイマガジン」という機能を準備しました。これによって読んだマンガの履歴から、リスト表示がカスタマイズされるようになります。また、同時に他のユーザーが併せてよく読んでいる関連作品もお勧めする機能も備えています。
例えば『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』を読んだユーザーには、『シャアの日常』や『ガンダムさん』などの関連マンガがリコメンドされるようになるでしょう。読めば読むほど自分好みのラインナップになっていくという感覚で楽しんでいただけるはずです。
――話題の『艦これ』をテーマにしたイラストや、新人賞の募集も始まりました( コミックウォーカー 艦これコミック大賞 )。
古林:Twitter上でイラストや作品の画像をハッシュタグをつけて投稿してもらい、RTやお気に入り登録なども参考にしながら選考を行います。ComicWalker上でも一定の条件を満たした作品を紹介していく予定です。
――英語に加え、中国語の表示にも瞬時に切り替える仕組みもユニークですね。とはいえ、2週間という時間で翻訳やその監修を行うのは大変ではありませんか?
古林:ACCESS社のPUBLUSというソリューションを採用し、作品のページを表示したまま、言語をスムースに切り替えることが可能になっています。ストーリーを楽しみながらの語学学習にも役立つと思いますよ(笑)。
KADOKAWAでは台湾などに拠点があり、現地で単行本が出版されている作品については既に翻訳が済んでいますので、それを活用します。ComicWalkerで連載される作品についても、海外で単行本を販売することを前提に、現地の編集者がしっかりと翻訳・監修を行っていますので、他の出版社に比べてもかなり強固な体制になっているはずです。
海外の子どもたちに向けた作品もつくっていきたい
――海外展開となると表現の問題をどうクリアするのか?というのも気になるポイントです。
古林:対象となる国でルール違反となる表現が含まれる作品は、原則としてComicWalkerには掲載しないようにはしています。これは初出となる紙の雑誌の基準と同様ですね。
それと同時に、新たな試みも行います。従来KADOKAWAのマンガ作品はいわゆるハイティーン・大人向けのものが多かったのですが、今回新たに設けたオリジナル編集部では、海外のマンガ読者=子どもたちに向けた作品も開発していきます。
例えば僕がかつて手がけた「特撮エース」ではかつてのヒーローもののファン=大人に向けた作品が中心だったのですが、ComicWalkerオリジナルでは、アジアの子ども達が楽しんでくれる特撮ものを生み出していきたいと思っていますね。
ズバリどこで儲けるのか?
――昨年から、出版各社が電子マンガ誌を相次いで創刊しました。紙の雑誌より安かったり、無料であったりと思い切った施策のものが多いのですが、ComicWalkerはずばり、どこで儲けようとしていますか?
古林: 将来的にはニコニコ動画さんのようなプレミアムサービスも導入したいと考えていますが、現状ComicWalkerでは無料で幾つかのエピソードを読んでもらいながら、気に入った作品は、電子書籍や紙の単行本をお買い求め頂く、というのが基本的なモデルです。
昨年9社が統合したことで、各BCとの連携を密に取れるようになりました。そして、ComicWalkerの各掲載作品からは電子書籍の売り場として唯一BOOK☆WALKERにリンクを設定しています。
例えば、ComicWalkerで特集的に通常よりも多めにエピソードを公開したときに、単行本の売り上げにどのように影響するのか、ほぼリアルタイムで情報が共有される体制が整っています。ComicWalkerでの購読状況と、単行本の売り上げを把握しながら、機動的な取り組みを行うことで収益の最大化を図っていきます。作家の皆さんにもComicWalkerに掲載することで、単行本の売り上げが伸び、結果的に印税という形で貢献したいと考えています。
ComicWalkerは、新たなマンガとの出会いの場
――ComicWalkerは全社を挙げてのプロジェクトだということもよくわかりました。どんな経緯で実現に至ったのか、また古林さんとしてどんな思いで取り組まれているかを最後に教えてください。
古林:出版の歴史においても、いまは革新の時代だと感じています。もともと、この企画はKADOKAWAカレッジという若手向け研修から生まれたもので、それを経営陣が検討し、採用に至ったものです。その存在を知ったときに「ぜひ僕がやりたい」と手を上げました。
僕はこれまで「ガンダムエース」など紙のマンガ誌を立ち上げ、その編集に携わってきました。その経験からしても、いま紙の雑誌による「マンガとの出会い」は出版不況と呼ばれる状況の中、どんどん減ってしまっています。ComicWalkerで改めてそういった場をプロデュースしたいというのが第一にありますね。デジタルの強みを生かして、これまで直接はリーチできなかった海外の読者にも作品を届けることができるという確信を持っています。
今回お話ししたように、作品はもちろん、外部サービスとの連携などシステムの上でもまだまだ取り組みたいことがたくさんあります。どんどん楽しく、便利になっていくComicWalkerにご期待いただければと思います。
――わかりました、これからの展開も楽しみにしています。
昨年の統合の際、電子書籍の大規模なキャンペーンを仕掛けるなどKADOKAWAの取り組みは、電子書籍の歩みを振り返る際にも重要なものが多く見られます。出版各社が試みている読者との接点を自ら持ち、単行本の売上向上を図っていくというモデルの中でも、ComicWalkerは対応するプラットフォームも、展開する作品数の規模も格段に大きく、その成否は「革新が確信に変わった」と語ってくれた古林さんの舵取りに掛かっていると言えそうです。
取材・文=まつもとあつし
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