官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第42回】三津留ゆう『純潔ポルノグラフィティ』
更新日:2014/4/22
三津留ゆう『純潔ポルノグラフィティ』
心を動かす写真が撮れないのは、処女のせい? そんなふうに悩むカメラマンの瞳子に、ある日飛び込んできたモデル撮影の仕事。被写体はなんと、瞳子がカメラマンになろうと決意したきっかけのスーパーアイドル・環だった! 初めての大きな仕事、初めて会う憧れの人。それだけでも緊張するのに、実際会った環はオフィシャルイメージと全然違う、超・俺様キャラで!? コンプレックスを持つすべての女性に贈るハートフルラブコメディ、開幕!
「意外と、いい体してんじゃん」
甘く掠れたその声は、脳髄をとろかすようだった。
ストロボが光らなければ、スタジオの中はぼんやりと薄暗い。天井のライトが逆光になって、“彼”の顔に濃い影を落としている。
大きな熱い手のひらが、ウエストのラインをなでる。“彼”の手はふとももをさすり、膝をつかむと、ぐいと外側に広げようとする。
「や……っ、何して……!」
「何してるか、わかんない?」
“彼”がくつくつと笑いながら、頭上にやった私の手首を押さえ込む。手の中には、買ったばかりのカメラがある――下手に暴れると、取り落としてしまいそうだ。
わからない。
わかるわけがない。
こんな展開が、自分の人生に訪れるなんて。
信じられない状況だった。
大好きな“彼”にのしかかられて、脚のあいだに割り込まれている。身をよじって逃れようとするものの、体を固定されていて動けない。
体の芯が、熱を持つ。
その熱に侵されて、奥から何かがとろけ出す。
私は体をふるわせて、足の付け根を固く閉じた。初めての感覚だ。体がじんと痺れるような、甘い疼きを私は知らない。
「や……めて……」
耳に聞こえた自分の声が、もの欲しそうでどきりとする。
本能に忠実な、濡れた雌の声だった。自分がこんな声を出せるなんて、思ってもみなかった。
「どうして? エロいとこ、撮りたいんだろ?」
“彼”が薄くくちびるを開き、意地悪く微笑んだ。
「だったら……その気に、させてみろよ」
私は思わず、ぎゅっと身を硬くして目を閉じる。
純潔を、失う瞬間。
あんなに焦がれた、そのときだ。
1
「やっぱり、無理ですってば!」
――都内某所、二時間前。
ワゴンのバックドアを思いっきり押し下げると、スタジオの地下駐車場に、バン! と大きな音が響いた。
……こんなふうに全部、シャットダウンできればいいのに。
はぁっと大きなため息が口から漏れる。できることなら、今すぐこの場から逃げ出したい。この撮影が決まってから四日間、念には念を入れて準備をした。それでも、うまくやれる自信がない。どうしても、覚悟が決まらないのだ。
「無理じゃねえって。お前の師匠が言うんだぜー? 大丈夫だって」
「ちょ……っと、待ってくださいよ、葛西さん……!」
私の混乱をよそに、葛西さんはさっさと先に立って歩き出した。私もあわてて自分のカメラバッグを担ぎ上げ、師匠の背中を追いかける。
「無茶ですって! 私なんかが撮るなんて……」
「まーた出たよ、瞳子の『私なんか』。やめろって言ったろー? そんなことばっか言ってっから、売り込みもうまくいかないんだっつーの」
「でも……!」
ゴムぞうりをぺたぺたと鳴らして歩く葛西さんの背中は、ひょろりとした長身なのに、軸がぶれることはない。だらしない無精ひげからはとても想像できないけれど、さすがは鬼才と呼ばれるカメラマンだ。
どう考えたって、葛西さんが撮ればいい案件だった。どうしたって私なんかに、こんな大事な撮影を任せるなんて言い出したのか、さっぱり理由がわからない。
2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊
一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。