話題の『セックスペディア』著者に聞く“平成女の性欲事情”

恋愛・結婚

更新日:2017/4/10

 女女官、一徹、クーパー靭帯…あなたはいくつ理解できるだろうか。女が人前でエロいトークをするのははしたないという風潮はいまだ根強く残っているものの、「そんなの気にしない!」と、自分の欲望にストレートに生きる女が増えてきた。女性向けアダルトビデオのSILK LABOや、プレジャーグッズのirohaなど、女性発の“エロス”が開花しているのだ。とはいえ、「女がエロくなったらしいぞ!ヤレるぞ!」とすぐ騒ぎ立てるのは愚の骨頂。

 女性たちは今、何を考え、何を欲しているのか? 話題の著書『セックスぺディア 平成女子性欲事典』(文藝春秋)の著者であり、あの大ベストセラー「女医が教える 本当に気持ちのいいセックス」シリーズ(宋美玄/ブックマン社)の編集を手がけた三浦ゆえさんに、平成女の性欲事情について聞いてきた。

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≪男性のオピニオンリーダーを探していた≫
 SILK LABO専属AV俳優の“エロメン”こと一徹君を本にしたいと思ったのは2年前。いくつか出版社に企画を持ち込みましたが、SILK LABOが黎明期だったこともあって、どこも相手にしてくれませんでした。

 それが昨年の3月末に彼がTBS『有吉ジャポン』に出演して、版元のほうから「ぜひやりましょう」と声がかかりました。「時代が変わってきたのかも」と思ったのは、そのときです。同時期、SILK LABOにも追い風が吹いていました。

 SILK LABOの作品を観ると、女性はただ自分の尊厳を守ってほしくて、男性に優しく扱ってほしいと思っていることがよく分かります。顔射やフェラチオ、非現実的なアクロバティックな体位は一切ナシ。挿入シーンの前には必ずコンドームを装着するシーンが登場します。そんなSILK LABOの作品を「物語もキスも長い」と感じる男性は少なくないのですが、つまるところ、それだけ女性が喜ぶセックス自体がファンタジーになってしまっている。だからこそ、女性の声を体現してくれる男性のオピニオンリーダーを、私はずっと探していました。

 一徹君の魅力は、あの世界にいながら、そこに染まるでもなく、流されるでもなく、至って「フツウ」なところ。あとは、ホスピタリティの高さでしょうか。例えば、サイン会で、顔見知りの女性ファンに「あれ、太った?」と声をかける。そんな言葉を投げかけられたら、ドキッとするじゃないですか。そこで、すかさず「お腹触っていい?」と手を伸ばし、「ほら、気持ちいいじゃん」と笑顔を見せる。わざと相手のコンプレックスを突いて、「ほら、そこがステキじゃ~ん」と全然ビジネスライクではなく、素で言ってのけてしまうんです。

≪性欲と性交欲は違う!≫
 『セックスぺディア』ができたのは成り行きです。当初、文春の担当者にエロのことばかり話していたら、言葉の意味を聞き返されることが多く、それで性の用語辞典があったら便利だなと思いつきました。「SM」や「ハプニングバー」など、聞きなれた言葉も入れましたが、基本的には新しい言葉が中心。イラストレーターの白根ゆたんぽさんが描くポップなイラストで、クスリと笑える要素をふんだんに盛り込み、手に取りやすさを意識しました。

 たとえば、「ブラジリアンワックス」は、昔はセックスワーカー特有のものというイメージでしたが、今では意外と森ガールみたいな、全然セクシー路線じゃない子が好んでやっています。その意外性が面白い。それに日本は高温多湿だから、陰毛はないほうがいいと思うんです。

 あとは「妻だけED」も入れました。男性誌から派生した言葉ですが、いかにも都合のいい言葉ですよね。EDって体の問題でもありますが、もともとは関係性の問題です。「性欲と性交欲は違う」とよく言われますが、例えば夫がズボンを脱ぐだけで、オーラルを希望し、妻は服を脱ぐこともなく終わる。これは、もうセックスではなく、性サービス。そんな風に「裸が見たい。触れたい」ということすら抜け落ちているのは、セックスとは言えません。夫の目的は性欲を満たすのみで、妻への性交欲はない。

 パートナーの「妻だけED」や「膣内射精障害」で悩んでいる女性は少なくありません。そういう人たちに、自分が悪いわけじゃないということを、この本を通じて知ってもらいたいと思っています。「私が魅力的じゃないから」とか「私のことを愛してないから」とか、思う必要なんて全然ありません。今の時代は自分から手を伸ばせば、上質なグッズがいくらでも手に入る。カウンセリングもある。楽しみつつ、自分を卑下するのはやめてほしいです。

≪「ペニスゆとり教育」が少子化を深刻化≫
 宋美玄先生がいうところの「ペニスゆとり教育」が今、すごく増えています。幼児教育雑誌で取り上げられている、「ムキムキ体操」って知っています?

 子どもが包茎にならないようにと、母親が幼い子どもの性器をムキムキと触ることを言うのですが、そんな年齢から、もう「ゆとり教育」が始まっています。

 泌尿器科の先生に聞いても、息子のペニスがおかしくないかとやってくるのは、お父さんではなく、決まってお母さん。11歳や12歳といった、第二次性徴期が始まっている男の子の性器をおかあさんが見ているのは、そもそもおかしい。

 それもこれも教育がいけません。一昔前は、エロ雑誌やエロビデオをまわし見ていたから、ちょっと自分が逸脱しても、なんとなく気づけたじゃないですか。でも、今はスマートフォンやタブレットの時代だから、それに気づけずにいる。親御さんたちも、見せたくないサイトに、いかにアクセスさせないようにするかという意識はあるのですが、「なぜそれを見てはいけないのか」、「何を見ていけないのか」という論点がすっぽりと抜けてしまっています。子どもだけではなく、親のほうも知識不足なんです。

 もともとあった流れとはいえ、性教育で「セックス」と言ってはいけないはずなのに、数年経つと、突然「性感染症はこわいぞ」「妊娠するとこわいぞ」と騒がれます。で、また数年経つと「赤ちゃんは大事」「さっさと産め」「早くしないと卵子が老化する」と言われてしまう。もう、てんでバラバラで、何が何やら。

 そんなことだから、日本女性は悩むとカウンセリングではなく、占いに行っちゃう(笑)。もちろん、カウンセリングだって良し悪しはありますが、セックスカウンセリングにしろ、心療内科にしろ、悩んだ時は占いに頼るより、プロの第三者に診てもらうほうがよほど安心できるじゃないですか。

≪性の問題は「誰が語るか」が大事≫
 宋美玄先生の『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』を出版する前、ありとあらゆるハウツーセックス本を読んだのですが、それで感じたのは、性の問題は、「何を語るか」以前に、「誰が語るか」が大事なんです。たとえばアダム徳永さんが、自分の名をつけて「アダムGスポット」と呼んでいる箇所があるのですが、それも宋先生いわく、「ああ、あそこは神経通ってないからさ」で終わっちゃう(笑)。医療という動かしがたいものは、やっぱり強いです。

 現代に生きる女性たちは今、いろんな現実と戦わなければなりません。子供を産んでいないなら、「卵子の老化」と批判され、産んだら産んだで、保育園の問題や復職の厳しさに直面します。

 昨年、『dress』(幻冬舎)誌上で卵子凍結保存を取材していて、高齢不妊について考えていたら、まったく性欲がなくなりました。この国で地続きにあることが、全然ハッピーに思えませんでした。

 男性はピュピュピュッとやったら、すぐに何万個も出て、そのうち1個でも元気なのがあればいい。でも、女性は月1個しかできないし、それをいっぱい取ろうとすると、ものすごく高額をかけて、閉経が早まるかもしれないというリスクまで背負わなくてはいけない。なのに、それだけやっても、取れるか取れないか分からないんです。だからこそ、ひとりで子どもを育てる女性たちのことも、もっと認めなくてはいけないし、卵子凍結保存も含めて、選択肢は増えたほうがいいと思っています。

 性に不満や疑問のない女性はひとりもいないと思います。自分を肯定するには、まずは自分の体の喜びを知ること。そのためにも、女性はもっと賢くなる必要がありますし、受け身のセックスから脱皮しないと。自分を大事に扱ってくれない男性の言葉を信じて、自分は感度が悪いとか、アソコのかたちが変だと思い込む必要などありません。セルフプレジャーという言葉がありますけど、自虐するくらいなら、自分に合ったグッズを使って、自分で自分をプレジャーすればいい。まずいものは食べなきゃいいし、それを続けていると自然とおいしいものしか食べたくなくなります。

 ぜひ正しい知識を身につけて、自分を肯定していただきたいですね。

聞き手・文=山葵夕子