日本一危険な映画レビュー「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」が1冊の本に!

映画

公開日:2014/4/16

 やった! 日本一危険な映画レビューのWebマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」がついに1冊の本になったぞ。

 柳下毅一郎はJ・G・バラードやR・A・ラファティなどの異色SF作家の翻訳を手掛ける“特殊翻訳家”である一方、辛口の映画評論家としても知られている。最も有名なのは『映画秘宝』(洋泉社)に連載された「ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判」だろう。同じく映画評論家・町山智浩とコンビを組み、それぞれ“ガース柳下”“ウェイン町山”を名乗って、笑いと毒がたっぷりの映画漫才を繰り広げたことはもはや伝説。「『千と千尋の神隠し』? 10歳の少女がソープで働く話だろ?」「『ラストサムライ』はサムライが蛮族扱いの映画だぞ!」などなど、神をも恐れぬツッコミの数々でどれほど多くの映画業界人を震え上がらせたことか。

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 その柳下が2012年より始めたのが「皆殺し映画通信」である。「ダメ映画を見つけたら映画館に行かずにはいられない」という柳下が日本映画を中心に鑑賞、トホホな内容の映画はレビューで斬りまくる、世にも恐ろしいWebマガジンなのだ。

 今回カンゼンより刊行された『皆殺し映画通信』はWebマガジンより76本のレビューを厳選したものだ。人気刑事ドラマ劇場版の最終作『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』に向かって「続編への未練たらたら!」、旧日本軍の軍資金を巡る大作『人類資金』は「小学生の考えたマネー資本主義かという……」と、どのレビューも柳下節全開。無農薬リンゴ栽培の実話を基にした『奇跡のリンゴ』に至っては、「狂気によって収穫されたリンゴ」とサブタイトルを付け、主人公の阿部サダヲが無農薬リンゴ完成の夢に憑りつかれて狂気へと踏み込む過程を丁寧に説く。これ、ありきたりな「感動の実話」だと思っていたんだけど、狂気を描いたホラーなの? そこまで言われると逆に観たくなってくるのが柳下レビューの不思議なところである。

 本書に収録されたレビューに通ずるのは、わかりやすさを求めた演出への批判だ。主人公の天才性を強調するために原作を改変し、主人公以外の人間を無能なキャラにしてしまう演出を取った『脳男』の評で柳下はこう述べる。

 「映画化するのが“馬鹿でもわかるようにする”ということになり、“マンガ的に戯画化する”ことになってしまったのはなぜなのか。それこそが日本映画の病理なのかもしれない。」

 「キャハハ、ゲームのはじまりだ」と甲高く笑う殺人鬼ばかりが登場する、やたらと派手で安っぽいBGM、ストーリーを全部台詞で説明してしまう…。こうしたわかりやすさゆえの演出は、映像で物語るということを放棄した態度として柳下の目には映るのだろう。「皆殺し映画通信」は、わかりやすさを掲げて映画の体をなさない邦画への鎮魂歌なのだ。

 ちなみにWebマガジンでは、「殺しの依頼」と称して一般読者から柳下に観てほしい映画を募っている。「これは!」と思ったダメ映画を見つけた皆さん、柳下さんへご一報を。

文=若林踏