F1仕事論に学ぶ世界一の考え方

ビジネス

2014/5/1

 4月20日、F1グランプリ第4戦・中国GPのファイナルラップで珍事件が起きた。

 日本人ドライバー・小林可夢偉(ケータハム)は、トリッキーな駆け引きとハンドルさばきで、目前のビアンキ(マルシャ)をオーバーテイク。順位を18位から17位へとひとつ上げてゴールした。ところが、上海サーキットのオフィシャルが誤って1周早くチェッカーフラッグを振ってしまっていたために、可夢偉のオーバーテイクは幻となってしまったのだ(可夢偉がビアンキを抜いた最終周より前にレースが終わったことになってしまった)。

 なんともお粗末な主催者側のミスだが、これは「世界一」を競うレースである。チーム予算数百億円を投じて最新鋭のマシンを生み出し、ドライバーが命を懸けてハンドルを握る。人とマシンがひとつになって、1000分の1秒でも速く走るために死力を尽くす超高速の職場には、「世界一の考え方」が存在する。

 元ホンダのF1デザイナー・エンジニアで、F1解説などを務める森脇基泰氏の近著『世界一の考え方』(三栄書房)に、仕事論・リーダー論が熱く示されている。

 1969年、本田技研にて四輪車の設計者としてキャリアを始めた森脇氏は、英国のレーシングカーコンストラクターGRD社でチーフデザイナーとして何台ものチャンピオンF1マシンを生み出した。帰国後、日本初のF1レース「F1世界選手権イン・ジャパン(’76)」「F1日本グランプリ(’77)」の主催者事務局の次長として交渉・契約を成立させた。その後、ノバ・エンジニアリングの副社長となり、現在ではテレビの解説者もこなす。

 この経歴を見ればわかるように、森脇氏は使われる側と使う側、現場と経営、発想と実装、日本と外国…あらゆる立場や考え方を経験している。そんな森脇氏の意識は「世界一になる」─その1点だけに向けられて来た。氏曰く「F1は、アイデアとイノベーションの宝庫」だ。ロータス49で開発されたエンジンにサスペンションをつける考え方、ファンカー、アクティブサスペンションなど、F1マシンは常に進化を続けている。その裏にあるのは、90%以上の失敗だ。「将来につながる挑戦的な失敗なら、どんどんして欲しい」という、森脇氏の言葉どおり、0.01秒を縮めるために、エンジニアたちは常に新しいことに挑戦し続けている。

 挑戦の結果生まれたマシンを走らせるのは2人のドライバーだ。マシン設計と違い、次に必要なのはアナログな人間とのコミュニケーションだ。時に感情的で理路整然としないこともあるドライバーの言葉を簡潔で正確に理解するために、質問のステップを刻んだり、「常に精神状態が安定した状況で話をする習慣を作る」ことが必要になる。感覚的なものを論理化し、パーツ交換やセッティングに活かすことが勝利へのカギだからだ。メカと人、人と人とのコミュニケーションが重要になる。

 そして、レースが始まれば、どんな状況が起ころうとも即座に対応しなくてはならないのがF1の現場である。「ドライバーに言い訳させない」準備で臨んだレースで、コンマ1秒のジャッジを繰り返す過酷な現場で、それでもミスは起こる。瞬時に状況を把握しジャッジを下すリーダーと、鍛え抜かれたピットクルー個人個人のスキルと責任感が、そのミスを最小限に留める。あるレースのピットイン中に、車を持ち上げるジャッキが壊れたとき、即座に新たなジャッキが出てきたことがあると言う。最善の準備を行った上で、その先に起こりうる事態を想定し、本番に臨む意識の高さが、そこにはあるのだ。

 「F1グランプリで世界一になる」という、自分たちがなすべきことを共有し、新しいことを恐れず、絶対にミスをしないという意識で臨み、それでも起きたミスに最善の対処を行う。それぞれが最大限の努力と責任を持って。それが世界一の現場なのだ。

 「世界一」は、あなたの人生にも必ずある。夢、仕事、家庭。その世界一が何なのかを、あなた自身が見つけることがその第一歩だ。

 森脇氏は、あとがきにこう記している。

「自分が好きで、何をして一生を送りたいのか、まず目標を決めること。(中略)強く思い続ければ叶えられる。」

 本書『世界一の考え方』には、世界一シンプルな、世界一の答えがある。

文=水陶マコト