【名言集に見るムーミンの哲学】「ムーミンたちは、ほかの人のために、やたらと心配しないでいようと、決めていました。」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

最近、ムーミンカフェが「ぼっち客に神対応をした」とネットで話題になっている。ひとりで来たお客さんに対しては、ムーミンファミリーのぬいぐるみを対面に座らせ、“ムーミンハウスに遊びに来たお客様をムーミンファミリーが出迎えている”という世界観を表しているというのだ。そんなふうにいつでも人々に寄り添い、童話や絵本、コミックなどでも世界中の人々に愛されている「ムーミン」の物語。なかには、大人もハッとさせられるような名言が詰まっているもの。そこで、4月15日発売の『ムーミン谷の名言集』(トーベ・ヤンソン:著、ユッカ・パルッキネン:編、渡部 翠:訳/講談社)から名言を紹介しながら、ムーミンの哲学を見てみよう。

まず紹介したいのが、『ムーミン谷の十一月』で、ムーミン谷の子どもたちを温かく見守る植物採集家のヘムレンさんのひとこと。

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「ひとつひとつの物の、ぴったりの場所がわかる人なんて、めったにいるもんじゃない。すべての物を、自分で全部、整理せいとんできる人なんて、ほんとうに、ひと握りしかいないんだ!」

ヘムレンさんがいうように、いつだって全部正しいもの、場所を選ぶことができる人は少ない。自分は正しいと思っていても、そうじゃないことはたくさんある。でも、自分ひとりでできないなら誰かに相談したり、ほかの人に協力してもらえばいい。この言葉は、そうやって手を取り合って生きていくことの大切さを教えてくれている気がする。

また、玉ねぎヘアの人気キャラクター・ちびのミイは、『ムーミンパパ海へ行く』でこんなことを言っている。

「たまには、怒んなきゃあね。どんなちっちゃな生きものにだって、怒る権利はあるんだから。だけど、ムーミンパパの怒りかたって、よくないわね。ちっとも吐きださないで、みぃーんな、しまいこんじゃうんだもの」

ミイはちょっぴり怒りっぽい性格だけれど、彼女の指摘通り、たしかに大人になると怒り方がわからなくなって、何でも自分の胸の中にしまいこみ、忘れるまでただひたすらずっと我慢する癖がついてしまう。自分さえ我慢すれば、すべてうまくいく。丸く収まると思ってしまうのだ。でも、ときにはきちんと吐き出さないと相手のためにもならないし、その後もずーっとその関係が続いて、いつかパンクしてしまう。小さい頃なら当たり前にできていたことを、ミイが思い出させてくれかのようだ。

そして、ムーミンに登場する人物たちが仲良く暮らしていける秘密は、『ムーミン谷の仲間たち』に書かれている、こんな文章にあらわれている。

「だれも心配しすぎないって、よいことでした。ムーミンたちは、ほかの人のために、やたらと心配しないでいようと、決めていました。つまり、そのほうが、心配をかけたと思って良心を痛めなくても、すみます。それに、ありったけの自由をあたえあっていることにもなるのです」

自由と孤独を愛する旅人であるスナフキンが、ときおりムーミン一家のみんなに会いたくなるのは、このほどよい距離感が心地よかったことに気づくからかもしれない。人との距離感はなかなかうまくはかれないものだが、ムーミンたちの関わり方に学べるところはたくさんある。

落ち込んだときや迷ったとき、行き詰ったとき、人間関係で悩んだときは、ムーミンの物語を開いてみれば、そこから抜け出すためのヒントが見つかるかもしれない。

文=小里樹