「コレステロール」に善玉・悪玉なんて存在しない!? 知っておきたい正しい「健康基準」

健康

更新日:2014/5/15

 「卵は1日1個まで」。迷信のようになんとなく信じていた「健康基準」。だが実は「卵は1日5個」食べてもコレステロール値は変わらないということがラット(肉食動物)による実験結果でかわっている。

 モデルをはじめ健康志向な女性のあいだで流行る、玄米や野菜中心のマクロビ食もしかり、「粗食のすすめ」を説いた書籍はたくさんある。「粗食こそが長生きの秘訣」「美食は短命」という「粗食長寿説」を世に定着させたのは、江戸時代の儒学者・貝原益軒だとか。著書『養生訓』で「肉を食べすぎるな」と説くが、肉を食べることができた上層武士や富裕商人に向けた健康読本。それは庶民が美味しいものを食べたがり働かなくなっては統治にならないということで、庶民の健康のためではなく、治世のためだったとか。

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 「肉」と「牛乳」を摂ることを否定する「粗食」と相反して肯定する「美食」。『なにをどれだけ食べたらよいか。』(柴田博/ゴルフダイジェスト社)の著者は、3時の甘味もよし、2合程度のお酒もよし、なんでも「高タンパク質」な食生活が健康の秘訣という「美食」肯定派。かといって、ハイカロリーで美味しいものだけを摂取していては本末転倒。本書は、今の日本人にとって「何」が「どれくらい」なのかの「基準」を教えてくれる。ぜひ頭の片隅に入れておきたい。

 まず、著者は、世に出回る間違った「健康基準」に警鐘をならす。そのひとつに冒頭でも触れた「コレステロール値」がある。2010年に、日本脂質栄養学会コレステロールガイドライン策定委員会が治療の基準となる血中総コレステロール値をそれまでの220mg/dlから280mg/dlに引き上げたのだ。著者はその前に実施した、長寿の街として知られる小金井市(東京都)の70歳を対象とした調査で、コレステロール値が高ければ高いほど10年間の死亡率が低くなるということがわかった。しかも、調査対象者(女性)の平均値が220mg/dlだったというから、以前の基準値に首を傾げたくなる。

 続いて、2012年には、「悪玉コレステロール」の治療基準が改正された。そもそもコレステロールに、「善悪」は存在しないそう。「悪玉が多いと病気になりやすい」と思い込んでいる人が多いが、だとすると前出の小金井市の研究結果に矛盾が生じてしまう。それまで実施されていた「善」と「悪」にコレステロールを分離して測定する方法は、国際的にも批判され現在は、ほとんど廃止されているそうだ。よってコレステロール値はそれほど気にするものではなかったのだ。健康診断で一喜一憂することもなくなる。

 そして、今年4月には、日本人間ドック学会が新たな「高血圧の血圧値」を発表。次々と基準値変更がなされる背景に、「医師と製薬会社」対「行政」の駆け引きが存在するとの一部報道もあるが…真相は? こちらの動向も気になるところだ。

 もうひとつ注目したいのが、「沖縄」が長寿日本一から、2013年には、男性は30位、女性は3位に陥落した理由だ。平均寿命日本一だった頃の沖縄は、脂肪摂取量が多かったそうだ。その背景には、気温が高い沖縄では油脂が食物の保存上重要な役割をになった上、食塩代わりにもなったので、塩分摂取も少なくてすんだ。それは、脂肪や動物性タンパク質不足による短命に喘いでいた日本にとって希有な長所だったのだ。ところが、一部の研究者とマスコミにより、肥満が平均寿命を縮める最大の要因とされ、カロリーと脂肪の摂取を控えることを促進。その結果、沖縄県民の脂肪摂取量が全国平均を大きく下回り、平均寿命の低下を招いてしまったのだ。そもそも日本人の脂肪と肉の摂取量は、欧米人の約半分。1日のカロリー摂取量においては、約30%にあたる1000キロカロリーも少なく、お隣の中国や韓国をも下回る。食生活が違うアメリカの研究結果を日本人にあてはめ設定した「健康基準」を促進する医師も多いそうなので、出元には注意が必要だ。

 本書は、ほかにも、「メタボリック症候群」の診断基準、「高血圧患者数」、「糖尿病」の過剰診断など多岐にわたる “健康ネタ”を題材に、今までの常識を覆す内容を紹介。「アンチエイジング」ではなく老いを活かす「ウィズエイジング」、“コク”と“キレ”の区別、うま味や酸味といった味覚の発達などにも触れ、悲観しがちな「加齢」が決してそうでないことにも気づかせてくれる。ダイエットと同じで、「食生活」の向き不向きに個人差はあるが、1日3回と少なくない日々の習慣だからこそ、しっかり「食」に向き合うために本書を手にとってみてはどうだろうか。

文=中川寛子

『なにをどれだけ食べたらよいか。』(柴田博/ゴルフダイジェスト社)