【刑事ドラマ】本庁と所轄の対立はウソ? 『踊る大捜査線』『相棒』はどこまでリアルなのか?

テレビ

2014/5/16

 警視庁湾岸署の一室、立派な制服を着た3人のおじさんが真っ白な紙と筆を前に何やら騒いでいる。

 「●●殺人事件でいいじゃないの?」「いやいや××殺人事件のほうがインパクトあって格好いいでしょう!」「それより■■の方が本庁の捜査員に受けるかと…」

 ドラマ『踊る大捜査線』でお馴染み、署長・副署長・刑事課課長ら“スリーアミーゴス”が「戒名」(会議室の入り口に貼ってある、事件名が書かれた張り紙のこと)について言い合う場面だ。

 「たかが事件名くらいで、こんなに悩むわけないでしょう!」「ギャグを入れるための過剰演出だよね」

 皆さん、そう思うでしょう?

 ところがこの「戒名」、実際の捜査でもかなりこだわって付けられているらしい。『「刑事ドラマあるある」はウソ?ホント? 元刑事が選ぶ本当にリアルな刑事ドラマ大全』(小川泰平/東邦出版)では「戒名」についてこう書かれている。

 「現実の捜査本部でも、戒名はインパクトのあるものをつけようと考えています。(中略)戒名でもっとも大切なのは、どこかで見聞きしたときにみんながすぐに“あの事件だな”とわかること。いかに事件を風化させず、情報提供してもらえるかがカギです」

 なるほど、“スリーアミーゴス”のコントも、案外本当のことだったりするわけですね。

 『「刑事ドラマあるある」はウソ? ホント?』は、元神奈川県警刑事の警察評論家・小川泰平が刑事ドラマを様々な角度から検証し、元刑事として「これはおかしい!」と思った場面、逆に「ここまでリアルに再現したか!」と感心した場面を論じた本である。

 例えば最近、大半の刑事ドラマで見かけるようになった本部と所轄の対立構図。映画『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』でも、真矢みき演ずる管理官が所轄の刑事を兵隊扱いして総スカンを食らう光景が印象的だった。しかし小川は「そんなわけがありません!」と一蹴する。

 「実際には本部と所轄の仲が悪いなんてことはありません。帳場が立てば一体となり捜査に当たるのですから、くだらない諍いなんてもってのほか。それ以前にしょっちゅう行き来しているので、交流もけっこうあります」

 組織の上下関係をよく表したリアルな描写だとつい思いがちだが、捜査する側としては本部も所轄も関係なく一致団結するほうが当たり前のようだ。

 小川のチェックは更に細かいところにまで行き渡る。事件現場にいる刑事が“あるもの”を付けていないことに小川は突っ込みを入れる。その“あるもの”とはヘアキャップのこと。

 「髪の毛が現場に落ちないようにするためですが、テレビのニュースで事件現場が映ると、鑑識係員と背広を着た男性、おそらく刑事でしょうが、ヘアキャップをしている姿を見かけることがあります」

 うーん、これはドラマの見栄え上、仕方のないことだろう。「相棒」の成宮寛貴にキャップをかぶせたら台なしでしょ。

 こうした微妙な部分に指摘が入るのも、現在の刑事ドラマがリアルを追求している証しである。特に90年代後半以降、アクションから科学捜査や警察機構の内幕へと視聴者の関心が移った刑事ドラマは、扱う専門知識の正確性が以前にも増して求められるようになった。本書で検証されている「あるある」の数々は、リアルとフィクションをどう上手く織り交ぜてエンターテイメントを作り上げるか、という苦労の跡でもあるのだ。

 ちなみに本書では逆にドラマの影響を受けてしまった刑事さんたちの姿も紹介されている。

 「『相棒』で言えば、右京さんがよく使う“あと、もうひとつだけよろしいですか”を実際に使っている刑事もいます。ドラマのまねというだけでなく、本当のことをしゃべらせるのに効果的という理由もあります」

 まあ、それで本当に右京さんばりの名推理を発揮できて、検挙率があがればいいんですけどねえ。

文=若林踏