『相棒』ファンに贈る、名コンビを描いたミステリー小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

テレビドラマファンだけでなく、ミステリーマニアも虜にする人気シリーズ『相棒』。杉下右京を“探偵”役とする『相棒』のミステリーワールドは、ときに作家を唸らせるほどの深みをもつ。そんな『相棒』ミステリーを愛するファンのために、『ダ・ヴィンチ』6月号では、ミステリー評論の第一人者であり熱狂的な『相棒』ファンでもある千街晶之氏によるミステリー小説ガイドを掲載している。

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しばしば『相棒』ではリアルタイムの社会的トピックがモチーフとなる。例えば「複眼の法廷」の裁判員制度導入、「悪意の行方」の学校裏サイト問題などだ。前者を扱ったミステリー小説には芦辺拓『裁判員法廷』(文春文庫)、後者には湊かなえ『少女』(双葉文庫)がある。また問題作「ボーダーライン」などで描かれた、最近の日本の“生きづらさ”をテーマにした作品には、福田和代『ハイ・アラート』(徳間文庫)や葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社)などがある。『相棒』では通常の1時間枠のほか、「バベルの塔」「ピエロ」のような元日スペシャルや、「ついている女」「狙われた女」の前後編などがあるが、それらを彷彿とさせる連続どんでん返しを楽しめるのがジェフリー・ディーヴァーの作品。『ボーン・コレクター』(文春文庫)に始まるリンカーン・ライムのシリーズはどれもお薦め。『相棒』の脚本家が小説に進出した例として、「ミス・グリーンの秘密」「最後のアトリエ」などの名エピソードを手掛けた太田愛の小説『犯罪者 クリミナル』『幻夏』(ともにKADOKAWA 角川書店)がある。彼女が執筆した脚本との共通点が感じられるはずだ。

最後に、碇卯人という別名義で『相棒』のノヴェライズ(朝日文庫)や、杉下右京が登場する3冊のオリジナル小説(朝日新聞出版)を発表している作家・鳥飼否宇の作品について言及しておく。代表作『樹霊』(創元推理文庫)は、テーマパーク建設をめぐって揺れる村で連続する怪事件を描く。生物生態の「観察者」鳶山久志が探偵役を務めるが、杉下右京ならこの事件にどんな決着をつけるかを想像してみるのも一興だ。

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誌面では「ミステリー史に残る名コンビ」「杉下右京に匹敵する頭脳派探偵」「劇場版3に捧ぐ“孤島”を舞台にした作品」「『相棒』ファンにお薦めの警察ミステリー」という4つのカテゴリーに分けてミステリー作品を紹介している。その中からここでは、「ミステリー史に残る名コンビ」から3作品を紹介したい。

■『改訂完全版 占星術殺人事件』 島田荘司 講談社文庫 838円(税別)
六姉妹がバラバラ死体と化した迷宮入り事件から四十数年後、この事件に興味を抱いた占星術師の御手洗潔は、親友の石岡和己とともに謎解きに挑む。ホームズとワトスンのコンビが確立させた、エキセントリックな天才肌の名探偵と常識人の相棒というパターンに則った組み合わせだ。

■『料理長が多すぎる』 レックス・スタウト/著 平井イサク/訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 700円(税別)
普段は外出しない美食家の名探偵ネロ・ウルフが珍しく出席したのは、15人の世界的な料理長が集まる晩餐会。だがその前日に殺人事件が起きた。ウルフと助手のスマートな好青年アーチー・グッドウィンが、時には憎まれ口をたたき合いながらも事件を解決に導くシリーズの代表作。

■『シャーロック・ホームズ全集(5) バスカヴィル家の犬』 アーサー・コナン・ドイル/著 小林 司、東山あかね/訳 河出文庫 800円(税別)
名門バスカヴィル家の当主が変死した。その後継者ヘンリーを狙う伝説の魔犬が、荒涼たるダートムアの沼地を駆け抜ける! 杉下右京も敬意を表する世界一有名な探偵ホームズと、その相棒ワトスン医師は、その後のミステリーのフォーマットを決定したと言っていい名コンビだ。

文=千街晶之/ダ・ヴィンチ6月号「『相棒』大特集」