【いまさら聞けない経済の基礎知識】なぜプライベートブランド製品の質は上がったのか?

経済

公開日:2014/5/21

■流通の「チャネルリーダー」とは?
 少子高齢化を迎え、日本国内の市場は成熟化に拍車がかかっている。消費全体のパイが縮小してモノが余り、企業は市場拡大の困難さに直面している。そして、その市場を支える流通に大きな変化が起きている。この変化を、著者の30年間におよぶ流通現場の観察から解説するのが、『流通大変動 現場から見えてくる日本経済』(NHK出版/伊藤元重/NHK出版)だ。

 流通とは、商品がメーカー(生産者)から、問屋・小売店を経て、消費者に販売されるまでの品物とお金の流れだ。流通チャネルと呼ばれるこの流れは、市場が成熟する以前は、メーカー(上流)→問屋(中流)→小売(下流)という安定した流れがあり、各々の住み分けがなされていた。メーカーが主導的な立場でブランド戦略を展開し、問屋と小売業がそれに従って安定的に商品を供給・販売する。この手法は、マスマーケティングと呼ばれ、自動車・家電製品・日用品・食料品などあらゆる製品がこの流れで消費者に届けられていた。

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 しかし、市場が成熟化しモノ余りの時代になると、この従来の方法ではなかなか売れなくなった。その状況を打開する取り組みの中で、メーカー・問屋・小売店の住み分けの垣根が取り払われ、それまではメーカーにあった流通チャネルの主導権=「チャネルリーダー」を巡る争いが激化している。

■小売業の躍進と問屋業界の再編
 まず、流通の下流である小売業の躍進の象徴になったのがユニクロだ。ユニクロは登場から圧倒的な低価格を原動力に、一気に全国ブランドにのし上がった。その低価格を実現したのが、SPA(製造小売)という事業モデルだった。その名の通り、製造から販売までを行う小売業、という業態だ。ユニクロは、小売業でありながら、製品の開発から物流までのトータルの仕組みを主導権をもって決定した。

 少品種多量販売とアジアでの生産により徹底的に生産コストを抑え、その商品を自らの低コスト経営の小売店舗で販売、そのサービス全体を「ユニクロ」としてブランディングした。これは、それ以前の流通チャネル、例えばアパレル(メーカー・問屋)から百貨店(小売)の流れでは、実現できないことだった。

 このような新しい流通チャネルの登場に立場を危うくしたのが問屋業界だ。かつて問屋はメーカーと小売店を結ぶネットワークの結節点として機能し、流通上なくてはならない存在だった。また、拡大する市場では、より効率的に生産し、より大々的に販売する流通機能の中心にある中流が力を持っていた。

 しかし、情報システムの進化により、注文の整理や決済は、中小の問屋が提供する必要がなくなり、東京の大手の問屋が集中的に請け負うようになった。また、商品の保管・仕分け・配送の機能も、ユニクロのように問屋そのものを使わない企業も増え、縮小が進む。今、問屋業界は、大手問屋による地方の問屋の吸収、大手問屋間の合併・統廃合など、業界の再編が進んでいる。

■「プライベートブランド」に見るメーカーvs.小売の力関係

 市場が成熟化してくると、「スマイルカーブ」(図)と呼ばれる傾向が強くなると言われる。上流にある企業は、製品の差別化で利益を上げやすい。下流にある企業は、消費者やユーザに近いところにいるので、ビジネスモデルなどで差別化し利益を上げやすい。ただ、中流にある企業はそれがどちらも難しい、というもの。成熟市場ではメーカーvs.小売というチャネルメーカーを巡る争いの構図が顕在化してくる。これまでチャネルリーダーとして、流通の主導権を握っていたメーカーに対して、小売業はモノを売る力を拡大することで対抗する。

 最近、コンビニやスーパーの店頭で、小売店のブランドを冠したプライベートブランドの商品をよく見かけるが、これもチャネルリーダーを巡る構図から捉えることができる。以前はプライベートブランドと言えば、中小メーカーに開発を委託したもので、価格は安いものの品質は劣るというイメージだったが、最近では、大手メーカーと共同でプライベートブランドを開発する例が増えている。

 大手メーカーは、小売店との力関係により、本来は自らのナショナルブランドを売りたいにもかかわらず開発に協力する。大手メーカーでも大手小売業に積極的に売ってもらわないことには、売上を維持することが難しいからだ。チャネルリーダーが、次第に小売業に移っていく力関係の変化を見てとることができる。

 そんな流通を巡る話を踏まえて、あらためてコンビニやスーパーの商品の陳列棚を眺めてみると、なるほどそれぞれの意図や力関係が見えてくるようでおもしろい。成熟市場で日々変化の進む流通の今がそこに垣間見える。

文=村田チェーンソー