【走れ! トロイカ学習帖】読書好きの熱き思いは全国同じ! 鹿児島ビブリオバトルに参加!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

4月で創刊20周年を迎えた本とコミックの情報誌『ダ・ヴィンチ』。これを記念して、ライター・北尾トロ率いる、本についてのあれこれを各地で調査する「走れ! トロイカ学習帖」は、過去あまり訪れたことのない九州を隅々まで味わうべく九州ツアーを実施。後半戦となる5月発売号では、大分→熊本→鹿児島→福岡へ。大分では砂風呂読書、熊本では書店講演を経つつ、鹿児島ではビブリオバトルに参加。その様子をルポ形式で掲載している。

10時前に鹿児島国際大学到着。学生ホールへ行くと、「ビブリオバトルかごしま」のメンバー9名が集まっていた。

advertisement

ビブリオバトルとは、書評合戦と言えばいいだろうか。参加者が1冊の本について5分間プレゼンテーションし、2分間のディスカッションタイムで質問などを受けつける。これを人数分繰り返したのち、プレゼンしなかった人を含めた全員で一番読みたくなった本へ投票し「チャンプ本」を決めるのが基本的なやり方だ。代表の元野明さんによると、「ビブリオバトルかごしま」には中学生から82歳までのメンバーがいて、月に一度のペースで活動しているという。常連メンバーは約30人というからかなりのものである。

本日はあえて対決ムードを強調するため、かごしまチーム、トロイカチームからそれぞれ3人ずつでバトルすることにし、他の参加者は投票のみとなる。

「では始めましょう」

元野さんが進行役となり、一人目が手にした本は『大江戸生活事情』(石川英輔)。

「この本は雑学風の手軽なものですが、専門知識が豊富な著者が書いただけあり、江戸のイメージが変わってしまうおもしろさがあります」

のっけから興味を引く紹介だ。二人目は『真夏の方程式』(東野圭吾)。ご存知湯川教授のシリーズものでベストセラー書でもあるが、ある程度の知識を皆が持っていることを前提とした読みどころの絞り込み方がうまい。三人目は一転して海外古典文学の『赤と黒』(スタンダール)。私はこれに一票を投じた。

理由はあまり一般受けしそうにない作品を、ストーリーではなくフランスの恋愛感覚という切り口で紹介してみせたからだ。ビブリオバトルがゲーム感覚の書評合戦だとしたら、この本は勝ち目の少ない本だと言える。でも、勝敗を競うスタイルをとりつつ、未読の本との出会いを演出するものであるなら、私にとっては大いに魅力がある。

これはうかうかしていると負けてしまうと思うほど、みなさんバトルを楽しむコツを知っている。結果的に連載でイラストを担当している日高トモキチ画伯のすすめた図鑑『恐竜の世界』がチャンプ本になったけれど、普段は取り上げられにくい本が紹介された新鮮さがかなり味方したと考えられる。

あと、印象に残ったのは参加者の笑顔。本好きは、集まって本の話をすることがまず楽しいのだ。以前、ビブリオバトルの大きな大会を取材したことがあったが、今日のような小さな集まりでこそ、このイベントの良さは発揮されるのではないか。いちおう形として試合めいたものになってはいても、本質は本を巡る雑談大会だと思うのだ。

映画ファンはいい映画を観たら作品について誰かと語りたい。同様に本好きは本について語りたい。その機会を、遊びの要素をプラスして提供するのがビブリオバトルと言えるだろう。

取材・文=北尾トロ/ダ・ヴィンチ6月号「走れ! トロイカ学習帖」