ノルマ未達成ならお立ち台で謝罪!? 恐るべき「自爆営業」の姿とは

社会

公開日:2014/5/22

 「普段のノルマも辛いのに、それ以外にも自分で自社の保険に加入するのが決まりになっていて、月に数万円も飛んでいく」。「毎月一定金額、自社の商品券を買わないといけないけれど、商品券で払える店が限られていて困る」。4月から正社員として働き始めた者が訴えるのは彼らの会社の「自爆営業」の実態だ。「自爆営業」とは、社員が営業ノルマ達成のため、不要な自社製品などを買わされること。「自爆営業」を迫るブラック企業の魔の手は、社員ばかりでなく、非正規雇用アルバイトにもにも及んでいるらしい。「ブラックバイト」である。たとえば、コンビニエンスストアのアルバイトは、3000円のクリスマスケーキ販売のノルマとして、1人7個以上が課せられ、売り切らないと自腹。同様にお歳暮などにもノルマが課せられるという。それは果たして「職場のみんながやっているから仕方のないこと…」で済まされる問題なのか? 「自爆営業」にはどんな実態があるのか。

 樫田秀樹氏は『自爆営業 その恐るべき実態と対策』(ポプラ社)の中で、「自爆営業」の現状に迫っている。自爆営業は、経営の失敗を労働者に尻拭いさせるものでしかない。本来ならば、自腹を切る必要などないはずなのだが、多くの者が自腹を切る道を選んでしまう。それは正社員ももちろんだが、非正規雇用者にこそ重たくのしかかる。

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 2013年11月、菅義偉官房長官が記者会見で郵便局員の年賀状のノルマ達成のための「自爆」に対して異例に苦言をしたことが話題となった。樫田氏は大規模な「自爆営業」が行なわれる代表的な企業として日本郵便を例として上げ、「自爆」に同行した様子に触れている。

 時給850円、1日6時間の週6日勤務で月収が13万円という30代前後の非正規社員・吉尾正人さんは、自分の力だけでは年賀状のノルマを達成できないので、年賀状を金券ショップに売りにいっている。勤務する中部地方から鈍行列車でわざわざ上京。近所の金券ショップは1~2軒しかない上、足元を見られて35円くらいでしか売れないのだという。もし、1枚につき15円も自腹を切るとなると、1000枚なら1万5000円も自腹を切ることになってしまう。おまけに地方では、金券ショップに持ち込むのは誰かに見られる可能性が高いが、都会ならばその心配はないから、毎回出張せざるを得ない。吉尾さんはお目当ての金券ショップを訪れると、1枚につき42円で1000枚を売却。8000円自腹を切ることになったが、鈍行列車の往復運賃を入れても、損害額は1万5000円以下で済んだからましだと樫田氏に語ったそうだ。

 吉尾さんの班には、正社員6名と非正規社員6名がおり、それぞれ正社員は9000枚、非正規社員は2500枚、班全体として6万9000枚のノルマがある。個人のノルマ、班のノルマは厳密に区別され、その両方を達成しないと、朝礼の時、社員全員の前で怒鳴り散らされる。ビールケースをひっくり返した「お立ち台」に「恥ずかしい社員」として立たされて、「皆様の足を引っ張り申し訳ありません」との謝罪の言葉を述べさせられる屈辱が待っているのだ。個人でのノルマが達成できないと、最終的には班長、はたまた、課長や部長などの管理職が自腹を切らなくてはならない。それを避けるために、上の者は弱い者をしつこいくらいに恫喝しなくてはならないのだ。

 これは年賀状だけに済まず、さらに、年賀状より売るのが難しい「かもめーる」や「ふるさと小包便」でも同じだ。おまけに小包便はカタログ販売なのでショップに持ち込めないから、全額自爆。しかも、最安でも1000円だから「年90個のノルマだとそれだけで9万円の自爆。でも同じものばかりだと自爆がばれるから、高いものも織り交ぜなくてはならない。

 なぜ、皆、自腹を切るのだろうか。樫田氏によれば、ノルマ達成には、彼らの生活がかかっているのだ。日本郵便を例にあげていえば、日本郵便(当時は郵便事業会社)は2011年4月1日の時点で、非正規労働者のうち、6割以上が年収200万以下であり、ボーナスも昇級もほとんどない。正社員になるためには、上司による評価が必要となるが、年賀状のノルマを達成できないと、「上司の指導に従わない」との評価を受け、昇進の道が閉ざされかねない。たとえノルマを達成したとしても、評価が上がるとも限らないが、彼らは上司から評定をちらつかされ、サービス残業や自爆営業を強要されてしまう。

 おかしいと思っても、転職が難しい今では、会社に逆らって失職するよりは自腹に走ってしまう現状があるのだ。一体労働者はどうやって身を守れば良いのだろうか。樫田氏は社内外の労働組合を頼りにすべきだというが…。NOといえない人間で溢れた日本社会でどれ程多くの者が「つらい」と言い出せずに潰れているのだろう。この本がそんな彼らが声あげるひとつのきっかけとなることを願ってやまない。

文=アサトーミナミ