女性向け官能小説を300作以上読み込んだ著者がすすめる作品とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

昨今、女性向け官能小説も多く出版されている。興味はあるけれど何から読み始めていいかわからないという人も多いだろう。そんな方にオススメなのが女性向け官能小説をレビューした『女子が読む官能小説』(いしいのりえ/青弓社)。

著者であるいしいのりえさんはイラストレーター。官能小説や女性目線のエロスが詰まった文芸作品などの表紙やイラストを担当している。今では8割以上が官能小説にまつわる仕事だ。もちろん、イラストを描くうえで原稿にも目を通す、その数は300作以上。

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本書では、官能小説を読み込んだいしいさんが選んだ60作品が紹介されている。その中からいくつかピックアップしてみた。

■電車での痴漢ごっこに励む男女
人妻、有名作家の官能作品を集めた『10分間の官能小説集』(石田衣良、あさのあつこ、岩井志麻子ほか/講談社)に収録されている勝目梓の短編『トゥエンティ―・ミニッツ』。
主人公の夏美は恋人のセックスに満足していない。夏美はセックスの過程を大事にしているが、彼は淡泊なセックスであり、どう頑張っても挿入して15分しかもたない。夏美は心と体の満足を求め、恋人とともに通勤時間20分を使い電車の中でセックスのトレーニングを始める。

■2番目の男で初体験を実感
13のエロチカ』(坂東眞砂子/角川書店)に収録されている短編『放っておいて、握りしめて』の主人公・ミチヨは女性雑誌のセックス特集を読みながら、うろ覚えの初体験を回想していた。慌ただしくすませた初体験は夢だったのか、現実だったのかおぼろげだ。そんな中、ミチヨはショウタロウと出会い初体験の想い出をなぞるようにセックスをする。ミチヨはショウタロウの体で自分の初体験を実感する。

■愛のないセックスこそ快感?
人肌ショコラリキュール』(蛭田亜紗子/講談社)に収録されている短編『リコちゃんの暴走』の主人公 リコは21回もの告白をしても決して振り向いてくれないシュウを愛している。
リコは「一度でいいから私と寝てほしい。そうしたら諦める」と宣言する。リコとシュウは陳腐なラブホテルでの服も脱がされない、キスもない、事務的なセックスをする。傷ついたリコだが、心の痛みを伴うセックスに快楽を覚える。それからは自ら傷つくようなシチュエーションを作り愛のないセックスを行うように…。

著者のいしいさんは「すべての作品に共通しているのは、人間模様がほんとうに色濃く描かれていることです」と言う。女性のセックスには、さまざまな感情が絡む。本書にはそんな女性の複雑な感情を代弁してくれるような作品が多い。心と体に物足りなさを感じている女性は、満たされる1冊を探してみてはいかがだろうか。

文=舟崎泉美