【MLBの哲学】ヤンキースのユニフォームに選手名が入っていない理由

スポーツ

更新日:2016/3/14

 ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手がメジャー初黒星を喫し、レギュラーシーズン公式戦での連勝は34でストップとなった。 マー君の活躍だけならず、ダルビッシュがノーヒットノーランにあと一歩に迫り、上原が安定したピッチングを続けるなど、MLBの話題に事欠かない日々だ。

 メジャーリーグというと、日本人選手の活躍に目が行きがちだが、MLBのその根底にある考え方、取り巻く環境、数々の伝説を知れば、ベースボールをもっと楽しめる、もっと好きになれる。 『ヤンキースのユニフォームにはなぜ選手の名前がないのか?』(鈴木友也/日経BP社)に、その魅力を探った。

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■ヤンキースのユニフォームにはなぜ選手名がないのか?

 意外に感じた人もいるかもしれないが、ヤンキースのユニフォームの背中には、選手名がない(レプリカにはある)。他球団では当たり前の名前がないのはなぜか?

「超一流選手でも球団の存在を越えることはない」

 ヤンキースの球団哲学がその答えだ。ヤンキースは名門中の名門球団であり、ワールドシリーズ出場40回以上、優勝27回という圧倒的な強さと伝統を誇る。その一員としてプレーすることは選手にとって最高の栄誉であり体験だ。ヤンキースに入団する選手は、たとえトレードマークだとしても、球団のルールに従いヒゲを剃り、短髪にカットする。超一流の有名選手でも。それでも入りたい球団なのだ。 選手はお金には代えがたい価値を求めて入団し、球団は新たな伝説を積み上げるために選手と共に戦う。すべてはヤンキースという球団のためにある。

■レッドソックスの本拠地ファンウェイ・パークに刻まれた歴史とは?

 上原の所属するレッドソックスのホーム、ファンウェイ・パークの右翼席はきれいなダークグリーンで統一されているが、一席だけ、赤いシートがある。それはなぜか?

「最後の4割打者・テッド・ウィリアムズ選手が1946年に放ったフェンウェイ最長のホームランが飛び込んだ位置」だから。

 左翼にあるグリーンモンスターと呼ばれる高いフェンス(11.3m)には、他球場の試合を伝えるスコアボードがある。スコアを仕切る白線の中に、小さな点々が入っている。

 これは何か? 答えは「モールス信号」。解読すると「TAY」と「JRY」。これは前オーナー・ヨーキー夫妻のイニシャル。夫、妻、財団と受け継ぎ、1933年から80年間に渡ってチームを守った夫妻への敬意を示したものなのだ。イニシャルの上には「IN(イニング)」「R(得点)」「P(投手)」の文字があり、並べ替えると「R IN P」…「Rest in Peace(安らかに眠れ)」の意味になるという。

 粋な仕掛けを施しながら、赤い座席にも、スコアボードにも「説明書きがない」のはなぜか?
「歴史とは、祭り上げるものではなく、ファンの心に静かに刻まれていくものである」と、鈴木氏はその意図を汲む。

 他にも、「マイナーリーグが低品質・悪立地でも成り立つ理由」や、球場をスタジアムではなく、総合施設・ボールパークとして「野球“も”見たい人を呼び寄せる」というオリオールズの戦略、「女性が設計したことで成功したスタジアム」など「ベースボール」にまつわる興味深いエピソードが満載。

 アメリカで「国民の娯楽(National Pastime)」と呼ばれ、深く文化と経済に結び付いた「ベースボール」には、町おこしやイベントで集客を考える自治体や団体のあなたにも役立つヒントが詰まっている。

 まずは、本書を読んで知識を詰め込んで、翌日、学校や職場でひとつ。

「ねえねえ、ヤンキースのユニフォームに選手の名前がないって知ってた?」

 テレビのチャンネルを、メジャーの中継に合わせて─「理由はね…」

 いつもより、ずっと盛り上がること間違いなし!?

文=水陶マコト