【インタビュー】魅力度最下位の県は蘇るのか? 水戸の無料情報誌『mitonote』の挑戦

文芸・カルチャー

2014/5/30

 ここ最近「地域ブランド」が次々と商品化されているように、「地元文化を紹介する冊子」も増えているようす。その街を象徴する写真を大きく使った表紙が目立ち、流行りのデザインと充実した内容のそれらの冊子は、無料にもかかわらず書店の雑誌コーナーに並べても引けをとらない存在感がある。ページをめくるたびに、作り手の冊子へのこだわりを感じる。そんな「地域誌」の甲子園ともいえる『文化誌が街の意識を変える展』が、渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMで開催(6月15日まで)。そこでは、各都道府県から選抜した47冊の「地域誌」に触れることができる。



d47 MUSEUM(渋谷ヒカリエ)で開催中の「文化誌が街の意識を変える展」(「D&DEPARTMENT」公式HPより)
 そんな「地域誌」の存在意義とはなにか、茨城県水戸市の魅力を発信する情報誌『mitonote』の編集長・沼田誠さん(水戸市役所みとの魅力発信課係長)にインタビューした。

――先日 “魅力度最下位・茨城県の自虐PVが潔い”というタイトルのニュースを発見しました。ピースの綾部さんや渡辺直美さんといった人気の芸人さんたちが登場して面白い反面、“茨城らしさ”から脱皮できていない惜しい感じも受けました。そんな茨城県の県庁所在地・水戸市の立場から地方のPRについて沼田さんが思うことをお聞かせください。



「なめんなよ♡いばらき県」THE MOVIE

沼田「茨城県は“常陸国”と言われひとつの地域だと考えられがちですが、県外出身の私から見ると、そもそも茨城県はひとつの地域じゃないのではないかと感じます。おおまかには、茨城都民とも呼ばれる県南、水戸藩、栃木県の影響も強い県西の文化に分かれていて、例えば、茨城ネタをやる芸人は、茨城を斜めに見られる県西の人たちが多いですね。その3つの地域をそれぞれ別々にプロモーションしていったほうがうまくいくのではないかと思っています。茨城県にはいろいろな地域資源がありすぎて、全体を描こうとするとあれもこれも取り入れなければならず、キャッチーなストーリーをうまく作れない、というのが、PRがうまくいかない原因ではないかと思います。」

――課題を抱えるなか、プロモーションツールとして『mitonote』が誕生したと思いますが、きっかけは何だったのですか?

  • 創刊号
  • 2号

沼田「水戸市長が変わったのを契機に、外向けの発信を強化しようと2012年4月に“みとの魅力発信課”ができました。市役所内で異動したい職員の公募があり、応募して異動が決まりました。いってみたら、北九州市の情報誌『雲のうえ』を渡されて(笑)こういうものを作ってくれと言われたのがきっかけです」

――『mitonote』の発行部数はどれくらいですか?

沼田「1万部です。デジタルが進む時流で、紙媒体ってどうなのかなという不安と、きちんとターゲットに届けることをしないと1万部の配布くらいでは効果がでずに終わってしまうのではと思いながらのスタートでした」

――『mitonote』創刊号のテーマはどうやって決めたのですか?

沼田「何か企画をたてるときは、市民の方や関係する有識者の方に話をうかがって、作戦をたてるのが多くの自治体で行われているやり方だと思いますが、県外から人を呼ぶのであれば、外から来ている人、外によく行っている人から話を聞こうということで、意見を集めました。すると、水戸は“豊かな自然と、文化的な街が近い場所”ということが見えてきました。また、”いつもの水戸”にも来てほしい、ということで、ひいたトーンでみせる“自然体の水戸”を意識しました。その結果、創刊号の表紙は手前に“千波湖”、奥に“街”、それを繋ぐ“ランナー”という構図に決まりました」



水戸市内に広がる千波湖(創刊号中面より)
 マスが釣れる環境の近くに人口20万人以上の街があるのは珍しいそう。水戸市街地の真ん中、日本三名園のひとつ偕楽園から一望できる位置に広がる“千波湖”。その四季折々が街の「人」を通して紹介されている。

水戸といえば、歴史の街というイメージが強いかもしれない。最近でも、冲方丁『光圀伝』や朝井まかて『恋歌』など、水戸を舞台にした小説は,歴史を題材にしたものが多い。しかし、沼田さんは、1998年に放映されたNHK大河ドラマ『徳川慶喜』で地元が一時的に盛り上がったものの、その後水戸へのリピーターをうまく掴めなかったことから、「徳川」はマンネリなのではないか、という意見があるということはわかっていた。年配の男性にはウケるかもしれないが、「歴史」を前面に推したお国自慢はあまりキャッチーではない。「水戸についてもっと深堀りしたいと思い始めた人に“歴史”に触れてもらえればいい」という。「水戸でいいなと思える場所が見つかったとします。そこには水戸の歴史があったからこそ、いい場所になったということが伝われば、逆に水戸の歴史が活かされる。」と沼田さん。『大日本史』という歴史をつくっていた文化ゆえ豊富な地域資源が残っている水戸。あえて強みをメインから外して誕生したのが『mitonote』なのだ。

――編集する上でのこだわり、大切にしていることは何ですか?

沼田「モノやコトをそのまま描くのではなく、そこに関わっている“ヒト”を通して、モノやコトを伝えるということです。良いものは全国どこにもあって、その地域の人たちがそれぞれに誇りをもっています。その中から“水戸”が選ばれようと思ったら共感してもらわなければなりません。そうなると中心に描くべきなのは“ヒト”なんですよね」

読者との距離が近い「地域誌」を作っていきたいという沼田さんの意向が伝わってきた。



多品種少量生産が特徴の水戸の農業(2号中面より)
――2号ではやさいとくだものを特集していますね

沼田「もともと水戸は多品種少量生産向きの土地で、就農したい人にとってやりやすい場所なんです。それは良くも悪くもあります。青森ならりんご、山梨ならブドウというように何かに特化している地域はPRもしやすい。何でも採れる、収穫時期もばらばらの水戸はうまくPRできないまま、そのままきちゃったのかなと。加えて後継者問題などもあります。掲載した“リンゴ園”は後継者の方がいて取り上げさせてもらったのですが、それが他の農家のみなさんの志気を高めるきっかけになればいいなと思っています」

2号では、東京から水戸に移住し就農した夫婦、本場オランダの製法で栽培するパプリカ農園とそれを使った学校給食の取り組み、日本最大の音楽フェス「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」で長蛇の列ができる「メロンまるごとクリームソーダ」誕生秘話(水戸はメロン消費日本一)、こどもたちへの食農教育などが紹介されている。後半では、徳川15代将軍・徳川慶喜の実父にあたる徳川斉昭が執筆した『食菜録』をひもとき、江戸時代の徳川家の料理が地元の調理学校監修のもと再現されている。お団子のような「ひりうす」は『食菜録』通りに作ると爆発するというから、当時と今とで食材も手法も違うことがわかる。「食」をテーマに、水戸の「今」にさりげなく歴史を紐付けた構成に編集長の意図がうかがえる。



「メロンまるごとクリームソーダ」
――県外では、どこで『mitonote』を配布していますか?

「都内は、d47MUSEUM(渋谷ヒカリエ)、アーツ千代田3331、アンテナショップの茨城マルシェ(銀座)の3箇所です。今後は、水戸藩の屋敷があった小石川後楽園など水戸に縁のある場所や、テーマにあったイベント会場での配布を考えています。水戸市内の宿泊施設には閲覧用として設置していますが、持ち帰られてしまうことも多く、結構補充しています。1万部はほぼなくなってしまう状況で本当は増やしたいのですが、震災の影響を受けた水戸市役所は、今はプレハブで狭く、保管する場所が確保できません。そうしたこともあって、電子書籍版(PDF及びePUB)も用意しました。」

――『mitonote』を通して、今後実現したいことは何ですか?

沼田「行政の手ではなく市民の手で作られていくことが理想の形です。ただ事業をお任せするのではなく維持できる形で手渡したいなとは思っています。正直、行政が税金を使って特定のヒト、コト、モノを取り上げていいのかなという葛藤もあります。たとえば、鎌倉市のフリーペーパー『KAMAKURA』は、一口5千円のサポーター制度があって、約120人の有志に支えられているそうです。これだけで60万の制作費が確保できるわけです。そうすれば、広告ぺージも作りこめて中の誌面とマッチさせられますよね。さらにサポーターに向けたイベントを行っています。個人的に協力してくれる方もいますが、どこかのタイミングでもっと見える形にして応援してくれる人を増やしたいです。うちの課が必要でなくなるための土台作りといいますか(笑)」



フリーペーパー『KAMAKURA』 vol.7「鎌倉の朝に会いに行く」
――『mitonote』の役割はなんですか?

沼田「『mitonote』の向かう先は、必ずしも県外ではないと思っています。転勤してきて水戸にまだ愛着がない人や住んでいる場所に愛着を持ちたいという人たちもいます。市民と外の人の両方が重なる輪を描いたときそこへ向けてはもちろん、もっと市民にひろげていきたいですね――例えば、アニメ『ガールズ&パンツァー』の聖地・大洗には、町の宿泊施設のキャパシティを超えるたくさんのアニメファンが集まってきています。あるとき、近郊の水戸に泊まってくれた人が、たまたま『mitonote』を手にとって、“水戸を観光するのにこの冊子がほしい”とみとの魅力発信課を訪ねて来てくれたことがありました。こういう “情報のキュレーション”としての役割を果たしたいです。たくさんの地域資源を加工せずにそのまま伝えようとする人が多いんです。それでは外の人に届かないので整理してわかりやすく伝えることが『mitonote』だと思っています。そのために新しい“切り口”をどうやって作るかは常に課題です」

「都道府県の冊子を文化誌、地域誌でくくったとき、すべてが一様ではないと思っています。ただ『mitonote』は地域の人の手で作られていくべき」。そんな『mitonote』は制作も印刷も水戸市の会社が担う。

「冊子のファンがいてくれるのは嬉しいけれど、肝心なのはその先で、実際に“水戸”に足を運んでくれる交流人口の獲得です。」と語ってくれた沼田さん。

「地域誌」といえど、対象、目的、背景はさまざまだが、「都会」がひとつの生活基準ではなくなった今、それぞれに特性をもつ「地方」がその基準になっていいはず。「地域誌」をきっかけに、いつもと違った見方をすれば、さびれた街がとたんに面白い街にみえてくる。そう考えると、ますます「地域誌」の存在が色濃くなってくる。

取材・文=中川寛子

沼田誠氏

1971年京都生まれ。2000年水戸市役所入庁。2012年4月よりみとの魅力発信課イメージアップ係長。公務とは別に、「オセロ発祥の地・水戸」のPRやコミケットスペシャル5の誘致などに関わるなど、様々な活動を行っている。水戸市カレー部長でもある。

【動画】「8/TV/057 文化誌が街の意識を変える展」フォーラムの様子を見る

『ミトノート』(1号)「水戸の真ん中千波湖」
『ミトノート』(2号)「水戸のやさいくだもの」