掛け軸を刀でぶった斬り、壁を突き破る! 驚きの海外アーティストの来日エピソード

音楽

更新日:2014/6/4

 ポール・マッカートニーの来日公演が中止になった。日本の次に予定していた韓国公演もキャンセルするほど体調が悪かったようだが、先日無事に帰国した。ポールといえば、1980年1月に自身のバンド「ウイングス」を率いて来日した際、大麻の不法所持で逮捕されて9日間拘置された後、イギリスへ強制送還となった、なんてこともあった。その顛末をネタにしたのが、小林克也、伊武雅刀、桑原茂一によるコントユニット「スネークマンショー」で、ポールを取り調べる菊池刑事のもとにサインをねだる人たちから電話がかかってくるというコント(『はい、菊池です(~7人の刑事)』というタイトルで、今もCDで聞ける)をやっていたが、実際にポールも看守の警官に頼まれ、色紙にサインをしたそうだ。いい人だ、ポール……。

 そのポールの初来日は、ザ・ビートルズとしてやってきた1966年6月29日。彼らの滞在はたった5日間だけで、ビートルズの来日はこの時のみ、しかも50年近く前の話なのだが、今でも語り草になっている。1960年代から2000年代までに来日した海外アーティストの初来日を記録した『来日ロック伝説 1960’S-2000’S』(シンコー・ミュージック)によると、ビートルズを乗せた飛行機は台風4号襲来のためアンカレッジで12時間待機した後、予定の翌日早朝3時39分に羽田空港に到着。あの有名なJALの法被姿でタラップを降りてきたのは、夜明け前だったのだ。そして警察による空港や高速道路への一般人の立ち入りが禁止された厳戒態勢の中、一行は永田町の東京ヒルトンホテルへ。ホテルは10階を貸し切りにしたビートルズ一行と、9階以下の部屋はほとんどマスコミが占拠、そして外はファンがぐるっと取り囲み、メンバーがコンサートへ行くたびにこれらの人たちがごっそり一緒に移動していたというから、当時の狂乱ぶりがわかるだろう。ちなみにビートルズのステージは11曲で35分間、アリーナ席はナシ、演奏中は立ち上がったり手を振ることも禁止だったそうで、今から考えると隔世の感がある。そしてこのビートルズの公演によって、武道場であった武道館が「Budokan」となり、世界的に有名なコンサート会場となったのだ。

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 また本書によると日本で一番暴れたのは、新リマスター盤がリリースされるレッド・ツェッペリンだ。特に大暴れしたのはドラムのジョン・ボーナム。1971年に初来日した際は、お土産に買った日本刀を振り回して掛け軸を叩き斬り、壁を殴って穴を開けたりするなどして700~800万円(当時はハガキ7円、国鉄初乗り30円、賞与を含めたサラリーマンの平均年収が初めて100万円を突破した年だ)の弁償金をホテルに支払ったそうだ。さらにホテル内では裸で掃除のおばさんを追いかける、公衆電話のコードを引きちぎって興行主の部屋の前に3台並べるなど珍妙なことをしたり、コンサート後は流血の殴り合い、そして新幹線では寝ている一般人に売店で買った牛乳をかけてまわるといったトンでもないイタズラもしたそうだ。しかしメンバーたっての希望で開催された広島でのコンサートの前には原爆の悲惨さを学び、その収益金700万円を寄付するということもしている。アーティストの頭の中というのは、振り幅がデカい……。

 本書には豪華執筆陣による来日コンサートのレポートやセットリストが掲載されている。飛行機が嫌いでアメリカから豪華客船で太平洋を横断してきたデヴィッド・ボウイ、将棋倒し&失神者続出のクイーン、銀座のホコ天でゲリラライブを敢行したエルヴィス・コステロ、原宿のホコ天でライブをしたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(彼らを知らないアマチュアバンドに機材を借りたそうだ)、富士急ハイランドの「FUJIYAMA」を楽しんだ(?)マリリン・マンソンなどなど、日本を舞台にムチャクチャをしたアーティストたちのエピソードも満載だ。個人的には音楽評論家の酒井康氏と東郷かおる子氏が、リッチー・ブラックモア率いる「レインボー」のライブで将棋倒しに巻き込まれ、九死に一生を得たエピソードが興味深かった(昔のライブ会場は戦場のようだ……)。

 最後にポール・マッカートニーへ話を戻すが、ポールには1975年に来日する予定が薬物犯罪歴が原因でビザが取り消されて幻になった過去があり、1980年の逮捕で入国管理局のブラックリスト入りをしてしまったため、もう日本へ来ることはないのか……とファンを絶望させた。しかしその後の活躍もあって特別に許可が降り、ようやく来日公演が行われたのは初来日から24年後の1990年だった。しかしそのツアーでも公演直前に体調不良となって、公演日の変更と7公演が6公演へ急遽変更(中止になった公演の振替はナシ!)になるなど、ポールの来日はこれまでにもいろいろと「事件」があったため、今回もあんな大騒ぎになったのだ。再来日する意欲を見せているというポールだが、次の来日公演は何事もありませんように!

文=成田全(ナリタタモツ)