人気歴史研究家が新著に『天皇陛下を見るとなぜ涙が出るのか』と名づけた理由

社会

2014/6/18

 まず初めに言っておきたいのは「本書のタイトルに惑わされるな」ということだ。本書『天皇陛下を見るとなぜ涙が出るのか』(河合敦/双葉社)は天皇陛下の素晴らしさだけを書き綴ったものではない。真の目的は、サブタイトルの「日本人の“天皇観”」にある。天皇とはいったいどんな存在であるのかを、歴史学の視点から非常にわかりやすく論じている本だ。

 著者はテレビ番組『世界一受けたい授業』などでも講義を行った歴史研究家で、文教大学付属高等学校の教諭であり作家でもある河合敦氏だ。河合氏が「天皇」という存在について調べてみようと思ったのは、2011年3月11日に起こった東日本大震災だったという。3月16日にマスメディアを通じて国民へ出された、天皇陛下が自ら伝えたメッセージ(これは終戦時の玉音放送以来となるものだった)、そして津波で破壊された被災地を見下ろして黙礼する姿をテレビで見た河合氏の胸には熱いものが込み上げ、「なぜだかわからないが、ただひたすらに国民の平安を願う天皇という存在を“ありがたい”と感じたのである。これまであまり抱いたことのない感情に、戸惑いを覚えた。なんとも不思議なことであった」と記している。同じような思いを抱いた人は多かったと思うが、本書とそのタイトルはこの感情から生まれたものだ。

 「天皇というと、イデオロギー的な臭いがして、無意識のうちに触れないようにしてきた」と河合氏が記しているように、天皇や皇室に関する話題はデリケートでアンタッチャブルな問題という意識がある。先日も女子高生が旅行中の天皇皇后両陛下が笑顔で手を振る写真を撮影し、ツイッターにアップしたところ、「素敵」という意見と「不敬」という賛否両論を巻き起こしたことがあった。宮内庁報道室によれば「一般の方がブログなどで個人的に楽しむ分には制限などはしていないです」ということなので、この写真をツイッターに載せることは問題ない。しかし賛否両論が起こるのは日本人と天皇の歴史が関係しており、それは本書を読むとスッキリと理解できる。

 天皇の歴史、それは日本の歴史とニアリー・イコールなものだ。その存在は『古事記』や『日本書紀』に記され、日本という国の成り立ちから関わっている。しかしそれはあくまで「神話」であり、後世の人間が天皇の権威や血統を正当化するために作られた歴史であるというところから本書はスタートする。ちなみに実在した天皇は誰からなのかについては色々と説があるそうだが、当時の物証(遺物)が残っているのは第21代の雄略天皇で、埼玉県にある稲荷山古墳から出土した鉄剣にその名が刻まれているという。

 さらに本書は、もともと日本に存在した神道と海を越えて渡ってきた仏教をどう取り入れたのか、武士の源流である平氏と源氏はもともと天皇家に由来する家柄であること、南北朝時代に別れた天皇家はどうなったのか、鎌倉~江戸時代の武家社会での天皇の立場などを非常にフラットな視点から論じている。中でも興味深く、意外と知られていないのが、幕末のキーワードである「尊王攘夷」が生まれた背景だ。これは王を尊ぶ古代中国の思想である「尊王思想」と、外国人を国内から排斥する「攘夷」という別の言葉が組み合わされて作られた言葉なのだが、それが結合したのはあの水戸黄門として有名な水戸光圀が関係しているというのだ。また女性天皇や皇室典範の問題、神国思想、天皇にまつわる疑問なども平易に解説されている。

 日本人が連綿と受け継いできた歴史、そして天皇とはどういう存在であるのかを知ると、本書のタイトルは自然と理解できるだろう。天皇の歴史は、イデオロギーや右・左、好き・嫌いではなく、日本人として知っておきたい歴史と知識なのだ。