次元がルパンを追う刑事に? マンガ『ルパン三世』次元大介を楽しむエピソード5選

マンガ

公開日:2014/6/22

 映画『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』が6月21日より全国で順次公開される。世紀の大泥棒・ルパン三世の相棒である次元大介を主役に据えたスピンオフであり、TVシリーズ「峰不二子という女」のスタッフによる原作のテイストを活かした作品ということで話題だ。しかしTVアニメを観たことはあっても、モンキー・パンチの原作マンガを読んだことがないという人は(特に若い世代を中心に)多いのではないだろうか。

 そこで今回は映画公開に合わせ、原作マンガ『ルパン三世』『新ルパン三世』から次元がおもしろい役回りを演ずるエピソードを5つご紹介しよう。

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■「ルパン殺し」(『ルパン三世』第13話)

 1967年から1969年まで雑誌『漫画アクション』(双葉社)で連載されていた『ルパン三世』は、ルパンとライバルである銭形警部以外のキャラクターが固まっていない。これは作者自身が「一話完結のストーリーで、これが終わったら次は全く別の話ですよという認識で」作品を描いているためである(早川書房『ハヤカワミステリマガジン』2012年7月号掲載のモンキー・パンチ氏インタビューより)。レギュラー登場人物の性格などが定まるのはアニメ放映以後のこと。
 従って「コンバットマグナムを持つ射撃の名手」という設定どころか、次元がルパンの相棒ですらない話だってあるのだ。この「ルパン殺し」がまさにそうで、ここでは何と次元は刑事で“ルパン殺し”の異名を取る宿敵として描かれている。ルパンと次元の対決もさることながら、ラストに意外などんでん返しが待っているのが楽しい。

■「アノ蒼白き城を見よ」(『ルパン三世』第25話)

 謎の城を目指していた次元がルパンとはぐれ、ルパンと勘違いされて敵の手に落ちしてしまう。危機を迎えた次元がどう切り抜けるのかが緊張感を与える一編だ。ルパンに向かって言う「しかしきょうほどおめぇを愛したことはねえぜ」というセリフがさりなげく心に沁みる。

■「ルパンの大罪」(『ルパン三世』第54話)

 「ルパン殺し」と同じくルパンと次元が敵対する話。ただしユニークなのはルパンがある会社の社員で、新製品の設計図を巡ってライバル会社の用心棒となった次元と張り合う点である。ルパンがサラリーマン? そう、マンガ『ルパン三世』ではルパン自身も大学生になったり、某国の雇われスパイになったりと、キャラクターをころころ変えることがあるのだ。コンゲーム、アクションといった要素を贅沢に盛り込みながら、キレのある落ちを1ページまるごと使って描いた、原作の中でも名編の部類に入る話である。

■「ウエスタン次元」(『新ルパン三世』第23話)

 アニメ化を経て1977年に始まった『新ルパン三世』では、固定したキャラクター性を活かしたエピソードが多くなる。「ウエスタン次元」がその代表例で、ある国の財宝を持って逃げようとするルパンを尻目に、次元が因縁のある殺し屋と決闘を始めてしまう「ガンマン」次元大介の面目躍如といった話だ。ルパンの国境までの脱出劇と次元の決闘がワンアイディアで綺麗に接合されている点に、作者モンキー・パンチの並々ならぬ構成力を感じる。

■「次元出ずっぱり」(『新ルパン三世』第68話)

 次元と言えば寡黙なイメージを持つ人もいるだろう。「次元出ずっぱり」は次元のキャラクターを最大限引き出したエピソードで、露天温泉に浸かる次元と殺し屋らしき女の静かなる対決を描いた、張り詰めた空気が迫る話である。最後のひとコマが醸し出す乾いた雰囲気が余韻を残す。

 キャラクターの個性を楽しむアニメの『ルパン三世』に慣れ親しんだ人が、世界観がいちいち変化する原作(特に初期)を読むと戸惑うかもしれない。しかし原作には画の力を用いて読者を騙す仕掛けが多く、上質なミステリ短編集を読むような感覚で接すればなかな愉快なマンガ体験になるはずだ。原作に目を通したことがない方はぜひこの機会にどうぞ。

文=若林踏