役所広司の目が、声が、ヤバすぎる… 映画『渇き。』の中身を原作でチェック!

映画

更新日:2014/6/25

 いやあ、凄いな役所広司。目がヤバいよ目が。

 何の話かというと、6月27日公開の映画『渇き。』の予告編のことである。

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 『渇き。』は『嫌われ松子の一生』『告白』を手掛けた中島哲也監督の最新作で、第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生のデビュー作『果てしなき渇き』(宝島社)を映画化したものである。

 予告編を見ればお分かりの通り、とにかく主演の役所広司のテンションが尋常ではない。虚ろな目にドスの効いた声、長髪をなびかせながら血まみれで拳銃を振り回すその姿に「ロクデナシの父」なんてテロップまで重なる。役所の全身から発散する凶暴性に危険な魅力を感じてしまう人も多いだろう。

 『果てしなき渇き』とはどんな話なのか。

 主人公の藤島昭和は警備会社に勤める中年男。かつては刑事だったが、妻の不倫相手に暴行を加えるという騒動を起こしたために辞職していた。ある日、別れた妻から一本の電話が入る。娘の加奈子が家に帰ってこないというのだ。加奈子の部屋を訪れた藤島は、そこで覚せい剤を見つけてしまう。美人で成績優秀、優等生だといわれた娘の身に一体何があったのか。そもそも加奈子はどんな子どもだったのか。加奈子の秘密にショックを覚えた藤島は、一心不乱に娘を探しはじめる。

 本書で描かれるのは、人間のなかに宿る禍々しいものの存在である。加奈子の行方を追ううちに、藤島は娘が仄暗い素顔を持っていたことに気付く。だが藤島自身も調査の過程で己の中の獣性に目覚め、制御できない破壊衝動にとらわれてしまうのである。少年不良グループ、やくざ。危険な連中を相手に藤島が容赦のない暴力に身を委ね、堕ちていく様が乾いた文体で描かれていく。私立探偵小説などに見られる「人捜し」ミステリーとして正道的なパターンを踏まえつつも、本作はどこか枠からはみ出て壊れている感覚を受ける。それは主人公藤島が暴走と自壊へ突き進むことで、読者のよって立つ視点が崩され、不安の中へ放り込まれるためだ。

 人間は誰しも心の中に抑えきれない自分を秘めており、そしてそれは何かのはずみで噴出したが最後、あとは混沌へとまっしぐら。深町秋生はそうした底なしの絶望を『果てしなき渇き』の藤島という男を通して描いているのである。

 予告編ではバイオレンスとアクション場面がクローズアップされ、藤島というキャラクターの強烈な印象を残した。果たして役所は原作の藤島がみせた内面の部分、すなわち「制御できない破壊衝動」についてはどう表現しているのだろうか。早く劇場でチェックしたいものだ。

文=若林踏