カレーは読みもの!? 食欲をそそる物語のなかのカレー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

綾瀬はるかが表紙を飾る『ダ・ヴィンチ』7月号。本とコミックの情報誌である同誌が、なんと異色のカレー特集を巻頭40ページにわたり掲載している。ドラマ『MOZU』の原作者・逢坂剛が案内するカレーと本の町・神保町、あさのあつこ、角田光代や大槻ケンヂ、山本文緒ら作家たちが薦めるカレーの銘店と本にまつわる思い出を紹介。また、ジェイン・オースティンの時代のカレーを、作家でもありシェフでもあり樋口直哉がオリジナルレシピで提供したり、マンガや小説に登場するカレーを再現するなど、本とカレーをからめた企画が盛りだくさん。ここでは、カレー欲をそそる物語・エッセイを本文中の描写とともに紹介する。あなたのなかで、本とカレー、どちらが勝利を勝ち取るだろう?

■『鏡をみてはいけません』 田辺聖子 集英社文庫 533円(税別)
〈生卵はカレーのあいだに溶け、飯粒にからみ、カレーと飯粒をとりもつようにみえた。舌が、辛さと熱さに焼けるのを防ぎ、マイルドな味わいをもたらす。〉
仕事で知り合った子持ち男と同居を始めた野百合。何とも楽しいのは10歳になる彼の息子に元気の素となる朝ごはんをつくること。だが突然連絡してきた元妻。初対面のランチで2人が選ぶのは、生卵を落とす“浪速風カレー”。30代女子が自分の居場所を模索する大阪愛情物語。

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■「太陽の上」(『炎上する君』所収) 西 加奈子 角川文庫 514円(税別)
〈しなびた白菜はカレーに入れると、また輝きを取り戻す。ぴりりとしたターメリックの刺激の中、白菜ははっとするほど、甘い。「あまい。」あなたは、そっと声に出す。〉
白菜を使ったのは玉葱がないから。「太陽」という名の中華料理屋の上に住むあなたは、3年間外に出ていない。けれど、白菜のカレーは数週間聞かないこともある自分の声を響かせた。あきらめることが一番の安心だと感じている女の子が外へと向かうまでのひたひたとやさしい物語。

■「ココナッツミルクのカレー」(『今日のごちそう』所収) 橋本 紡 講談社 1400円(税別)
〈たっぷり残っているカレーにココナッツミルクを垂らす。五月の助言どおり、ほんの少しだけ。白いミルクが、カレーに混じっていく様子は、少しエロチックだった。〉
出張に出かける母がたっぷりと作っていったカレー。ひとりきりになった梨江はこれから3日間、何をして過ごそうか想いを巡らせる。2日目の夜、さすがに飽きてきたカレーを前に、女の子のような名前のクラスメート、五月の言葉を思い出す。タイ風になったカレーはひとつの企みを連れてくる。

■「無花果カレーライス」(『ドライブイン蒲生』所収) 伊藤たかみ 河出書房新社 1400円(税別)
〈大抵、男にとって美味いカレーの原型って、単におかんが作ったカレーだったりするよね。言ってみれば、男の離乳食だよ、ありゃ。〉
幼なじみのトモナリと30男2人、狭い台所でカレーを煮る。さっきから陽介の脳裏に浮かんでくるのは、小学生の頃のある事件から互いに呪い、ののしり合っていた母・月江のこと。“ハッキョーして”、家を出ていった彼女がよくつくっていたカレーライスのこと。その月江は今……。

■「ゆで卵のキーマカレ―」(『ベーコン』所収) 井上荒野 集英社文庫 495円(税別)
〈サモサとタンドリーチキンが運ばれていき、シェフが小鍋に移しているのはやっぱりゆで卵のキーマカレーだ。〉
「家を出て、柚衣と一緒に暮らす」。インド料理店で、柚衣がそう告げられた時、彼が頼んだのはゆで卵入りのキーマカレー。残してきた妻子に自分の存在は隠されたまま。だから彼の娘たちが遊びに来たいと行った時、二人で暮らすアパートから、柚衣は荷物ごと姿を消さなくてはならなかった。はたして彼女の行き着いた先は――。

同誌ではほかにも厳選カレー小説・エッセイや必読レシピ本を紹介している。

構成・文=河村道子/ダ・ヴィンチ7月号「禁断の最終決戦!本VS.カレー特集」