【マッシュポテトは飲み物!】至福? 背徳? 衝撃の超高カロリーレシピ本が登場!【サーロインの塊を油で揚げる!】

食・料理

公開日:2014/6/30

 世の中は健康志向。食品は「ヘルシー」「低カロリー」「糖質オフ」「油分カット」のオンパレードだ。外へ食事をしに行けばこれから食べるメニューのカロリーが表示してあるし、炭水化物に至っては諸悪の根源かと思うほど目の敵にされている。また最近ではグルテンフリーのダイエット(グルテンとは小麦などに含まれるタンパク質の一種。つまりパンやパスタなどを一切食べないというもの)なども流行しているようで、猫も杓子も…と書いて気づいたが、ホントにペットフードまでもがダイエット志向だ。

 そんな風潮に「ちょっと待った!」と声を上げたのが、料理研究家の枝元なほみさんと多賀正子さん。お2人が食べる喜びを極限まで追求した『禁断のレシピ』(枝元なほみ、多賀正子/NHK出版)は、揃いも揃って高カロリーなメニューばかりなのだ! ボリュームのある肉レシピ、食べ始めたら止まらないエンドレスレシピ、とにかく目の敵にされがちな炭水化物、甘いものなどのレシピが満載で、本書に載っているものをすべて作ると、なんと総カロリーは106,020kcalとなり、これは成人男性が摂取するカロリーの約50日分に相当するという圧倒的な量なのだ! このレシピ、枝元さんの伝えたいことは「おおらかにいこう!」ということ、そして多賀さんはこれまで提案すると「それは量が…」「それはカロリーが…」と言われてやむなく引っ込めていた究極のレシピを惜しげもなく披露している。

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 1.3kgの巨大な牛サーロイン肉を塊のまま油で揚げ、付け合わせには大量のマッシュポテト(ちなみに多賀さんによると、なめらかでのどごしの良いマッシュポテトは「飲み物」なんだそうだ)という「フライドビーフ」。表面はカリッカリで香ばしく、噛むと中はしっとりレアで肉汁が溢れ出すこの料理のカロリーは衝撃の6,150kcal。そしてコーンクリーム味のポテトグラタンとペンネが入ったトマト味のチキングラタンが一緒になった「紅白ソースのよくばりグラタン」は怒涛の4,720kcal。ピーナツバターをひと瓶まるまる使い、さらにバター、砂糖、全粒粉、ベーキングパウダー、卵、ピーナツ、板チョコレートという、カロリーの塊のような材料で作る「ピーナツバター使いきりクッキー」は圧巻の7,920kcalだ!

 枝元さんは本書で「今の世の中、あれもこれもダメ、ここは要注意だしこうあるべき、なんて自己規制を強いられることが多すぎるんじゃないかなあ」と嘆き、「まるで私たち、知らず知らずのうちに頭で“食べること”や“生きること”を管理しようとしているみたい。でもね、食べることはただ養分を摂取するだけのものじゃなくて、もっとずっと生きていくことに近い、楽しくてうれしいことだったはずって思うんです。明日も明るく元気よく生きていくために、気持ちを緩めて自分を甘やかす、食欲に身を任せるときがあってもいいんじゃないかなあ」と語っている。そして多賀さんは「食欲という本能がグググ…ッと刺激されたなら、それが私の幸せなのです。だって、食べることは楽しいこと、日々の喜びであり、生きる元気の源だからです」と言う。

 人間の脳は油脂、肉、炭水化物、砂糖など、糖質・脂質・アミノ酸を含んだ食品を「美味しい」と感じるようにできている。人間の体は基礎代謝が非常に高く、何もせずじっとしていても膨大なカロリーを消費するが、それは敵に襲われたときすぐに逃げられるよう体をアイドリング状態にしておく必要性から生じたものだ。このため人間は生命維持に多大なエネルギーが必要となり、効率よく摂取するために高カロリー=美味しいと感じるようになったのだ。また人間というのは、パーティーなど多くの人が集まる場で食事をすると「美味しい」と感じるのだそうだが、このレシピ本は大人数に向けたものが多く、たまにはみんなで集まって、ワイワイと料理と食事を満喫しようということを勧めている。もちろん肥満や成人病の予防にはカロリーを摂り過ぎないことが大事だ。しかしたまには超高カロリーな「禁断の味」は楽しみのある人生に必要なことであり、人間のDNAの底の記憶を思い出せさてくれることだろう。

文=成田全(ナリタタモツ)